第二十六話 〜夜に舞う喋 前編【暁 Ver】
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ながら不愉快だと言わんばかりに眉を寄せた。口の中から身を乗り出すようにしている姿は、まるで。口の中から生まれようとしているようで。蛾の無機質な目と視線が合った瞬間。はやては、僅かに身を震わせた。
「六課のみなさんには、ご迷惑をおかけしません」
「一人でやる言うんか?」
「はい」
はやては、椅子へ深く身を沈めた。確かに人員は割けない。人手不足は六課だけの問題ではなく、管理局全体の問題でもあったが。隊長、副隊長陣は抱えているものが多すぎて、前を見て進むのが精一杯の状態だ。かと言って、一時的な出向とは言え今のギンガは間違いなく六課の仲間なのだ。一人で放り出すわけにはいかない。彼女の身に何かあれば、自分が師匠と呼ぶゲンヤ・ナカジマに顔向けできなくなる。だとするならば──── 選択肢は然程多くない。はやては、徐に椅子から身を起こすと端末を立ち上げ……『彼女達』を呼んだ。
おもちゃ箱をひっくり返したようなワークデスク。タバコの吸殻が、山を築き上げている灰皿。天井には古めかしいシーリングファンが、ゆったりと時を刻むかのように回っている。常時立ち上げている骨董品物のモニタには、知らない人が見たら首を傾げたくなるような『物体』が、ふわふわと浮いていた。デスクに飾ってあるフォトスタンドには、人の良さそうな笑顔を浮かべている青年と、無表情を絵に書いたような少女が、ピースをしていた。
六課の小奇麗なメンテナンスルームとは、似ても似つかない……頑固な時計職人がいそうな──── 桐生の『工房』である。工房兼、桐生の私室となっている二十畳程の部屋は、仕事場と生活空間が混在しており、彼の妹が見たら確実に片方の眉が釣り上がるような様相を呈していた。
この部屋の主であり桐生家に於て、何故か一番発言力が低い件の人物は、普段着のままベッドで熟睡していた。だが、一度寝たら三年は起きないという童話の主人公でもない限り、夜明けは来るものだ。
『やっと起きたかい? 桐生』
スクリーンの中でふわふわと浮いている不可思議なオブジェ──── ボブは眠りから醒めた主へと声をかけた。桐生は上下スウェットというシンプルな格好のまま幽霊のような足取りでワークチェアへ座り込む。
「おはようございます……あれ、煙草知りませんか?」
『いや、知らない』
桐生は未だ夢の中へ片足を突っ込んでいる状態のまま暫し考え込んでいたが、やがて吸殻の中から比較的長いものを探しだし、口へ咥えると燐寸で火をつけた。
『桐生……情けなくなるから止めて欲しい』
「だって、ないんですよ。煙草が」
『さっき聞いたよ。まったく……アスナが見たらなんて言うか』
「素敵とか言ってくれませんかね」
『言うものか』
桐生は、ボ
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