三幕 惜別のベアウルフ
1幕
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視界が徐々に色を取り戻す。
ルドガーは周りを見回した。周囲の全体にセピアの光彩が混ざったような感覚。間違いない。いつもの妙な世界だ。
「大丈夫か、フェイ」
腕の中に閉じ込めていたフェイを解放する。フェイは平易な表情で首を縦に振った。
「フェイはヘーキ。アリガト、パパ」
「――フェイ」
「あっ。ゴメン、ナサイ……ルド、ガー」
耳の垂れたウサギのようだった。ルドガーは一つ溜息をつき、どうせすぐ別れるからと棚上げにした問いをあえて口にした。
「なあ。ヘリオボーグの時もだけど、フェイは何で俺を『パパ』だと思うんだ? 本当のパパがいるんなら、その人のことをパパって呼んだほうがいいんじゃないか?」
「……いた、けど、父さんはフェイの『パパ』じゃなかった」
意味を聞き返そうとする前に、フェイはルドガーから離れ、上下左右を見渡した。
「ココ、なぁに?」
「! ここが普通じゃないの、分かるのか?」
「分かる。さっきまでフェイたち列車に乗ってたのに、ココは列車じゃない。ルドガー、ココ、どこ?」
「ごめんな。俺にもよく分かってないんだ。ただ、フェイの言うように、さっきまでいた列車じゃないってのは、俺にも言える確実なこと」
そこで慌ただしい足音が聞こえて、ルドガーはふり返った。
「ルドガーとフェイいた!」
「大丈夫ですかっ?」
「エリーゼ……エルも」
エルとエリーゼの後ろからローエンも付いて来ていた。
「何やら妙な気配がしましたので、ルドガーさんとフェイさんは大丈夫かと思いまして」
「この通りだよ。心配してくれてありがとな」
「よかったです。では一度ジュードさんたちのいる車両へ戻りましょう。皆さんも心配されていましたから」
「ああ、そうだな」
ルドガーはフェイに手を差し出した。フェイはルドガーの顔と手を何度も見比べた。馴れ馴れしすぎたかとルドガーが手を引っ込める寸前、フェイはゆっくりと手を掌に預けてくれた。
ルドガーたちがデッキを抜けて、車両をいくつか通り過ぎた時だった。ドアに近い席にいるのか、中の客の声が聞こえた時があった。
――なあ、やっぱり俺なんかじゃなくて……
――やめましょう、その話は。人間は利権が絡むし、信用できない。私はあなたがいてくれればいいの。
ルドガーはローエンやエリーゼと顔を見合わせた。今の声はテレビや街頭演説で馴染みがある声だ。
自動ドアが反応しないよう、こっそり窓から車両の中を全員で覗く。こちらに向いて座っている女性が見えた。
「ローエン。もしかしてあの人、エレンピオスの――」
「はい。エレンピオス現首相のマルシア女史です。おかしいですね。先ほどこの車両を通った時にはいらっしゃらなかった
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