第5章 契約
第78話 生きている炎
[4/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
、同郷の出身者と言う訳でもない……。
いや、本当の意味で言うのなら、昨日出会ったばかりの相手のはずなのですが。
しかし、
「自分の息子と、義理の娘の危機に対処しない親は居ません」
俺の下方。高度差で言うと俺たちよりも更に二百メートルほど下方から母の台詞が聞こえて来る。
この声は、マジャール侯爵夫人アデライードの声。但し、彼女は俺の本当の母親の訳は有りません。まして、ガリアの公式な発表上でも、彼女は俺の育ての親と言うだけで、生命を与えてくれた母親と言う訳ではないのですが……。
ただ、余りにも他人行儀だと近い未来に……。一時的にガリア王太子の替え玉を演じる際に、そんな細かな所からボロが出る可能性も有りますから、この蒼髪、蒼い瞳で居る間は、彼女の息子の振りをし続ける方が正解でしょう。
もっとも、ヤツ、ナナシの権兵衛に対して、その程度の演技は無意味だと思いますが。
何故ならば、ヤツは俺の名前。この世界で名乗っている偽名を口にしましたから。
内心で俺が非常にリアルで、更に打算的な事を考えて居る事など斟酌する心算もないのか、上空から最初と同じようなやる気を感じさせない瞳、及び雰囲気で下方を眺めるナナシの権兵衛。
先ほど失った右腕が有るべき場所からは、未だ黒き液体を異界から吹き寄せる風に散じさせながら。
そして、
「成るほど。どちらにしろ、上しか見えていなかった見たいだな」
上から目線で俺たちを見下ろし、嫌な台詞を続けるナナシの権兵衛。
その瞬間、それまでとは違う気配が爆発した。
風に乗りて歩むモノや宇宙を旅するモノは明らかに風の眷属。しかし、新たに発生した気配は、非常に強い炎の気。
「この地。火竜山脈に封印されているのが、イタカとビヤーキーだけだと、誰が言った?」
その言葉と、爆発的に発生した炎の気配に対して、慌てて下方に目をやる俺。
其処に存在していたのは――――
すべてが撃墜されたとは思えませんが、既にビヤーキーと飛竜騎士団の戦いは終息に向かって居り、残るビヤーキーは僅かと成って居る。そして、その事に因って大群の黒き身体に隠されて見えなく成って居た太古の森の姿が、黎明の陽光の下に広がって居るのが確認出来ました。
その瞬間。
小さな点の如き明るい光……蒼白い光が、森の彼方此方から発生した。
其処から紅い火の粉に因り出来上がる波紋が、ゆっくりと広がって行く。
見た目はゆっくりと。しかし、現実の時間として判断すると凄まじいスピードで……。
滅びの炎が具現化したような勢いで広がりつつある紅蓮の炎。
凄まじいまでの高温が陽炎を発生させ、黎明の蒼穹を歪ませながら広がって行く……
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ