9話 ラウネシア
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人のそれに近い視覚も有していると見て間違いない。それに対応する知能を有している。コミュニケーションは十分に可能だ。
『私の森に入ったのは、貴方が初めてです』
不意に、感応能力にはっきりとした意思が割り込んだ。アルラウネが発した感情だとすぐに理解できた。
途端に、思わず後ずさってしまう。
ボクには確かに植物の心を読み取る能力がある。しかし、ここまで明確に思考そのものを捉えたのは初めてだった。
いや、そもそも植物に自己という明確な自我は存在しない。中枢神経系が存在しない以上、高度な知的活動は起こりえない。そこに思考は存在せず、感応能力で拾えるものは自ずと感情に似た大雑把な心の動きに限定される。
しかし、このアルラウネには明確な自我が存在するのだろう。人間の中枢神経系に似た全体を調整、統括する部位が存在し、人と同じように言語によって思考を実現している。その結果、言語そのものをボクの感応能力が拾い上げたようだった。
「もしかして、喋れるんですか?」
『私は貴方のように音を発する器官を持ちません。しかし、貴方はこちらの意思を読み取る事ができる様子。それを喋る、と定めるのであれば私は喋る事が可能だと答えましょう』
極めて明瞭な思考。
アルラウネが薄い笑みを浮かべる。その見た目相応の、大人びた笑み。
想像以上の知性を有していると見られるアルラウネに、思わず言葉を失う。これと敵対すれば、危険な存在にもなりうる。
「あの、名前はありますか?」
『ありません。この森に高度な情報交換ができる存在は他にいないからです。お好きにお呼びください』
くす、とアルラウネは控えめに笑う。とても植物とは思えない仕草。
「……ラウネシア、と呼んでも構いませんか?」
『ええ。どうぞ。貴方には個を識別する名前があるのでしょうか?』
「……要(かなめ)です」
『カナメ。覚えました』
そして、ラウネシアは優しく微笑む。
『食べ物に困っているのであれば、果実を提供する用意が私にはあります』
その代わりと、とラウネシアの思考が続く。
『私に絡みつく植物を引き続き駆除して欲しいのです。いかがですか?』
願ってもいない提案だった。安定した果実の供給が叶うならば、それくらいの仕事は歓迎する。
「……是非お願いします」
ボクの言葉にラウネシアは笑みを絶やさず、大きく頷く。
『良かった。貴方とは良い関係を築けそうです』
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