6話 ムシトリスミレ
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ボクは無防備な四つん這いから、無理やり右手を引き抜こうと力を入れた。途端、皮膚が千切れるのではないかと思うほどの激しい痛みに襲われる。予想を超える粘着力。雑草たちはボクの手に吸着して離れない。
周囲の雑草たちが怒っている。そこには明確な攻撃意思があった。その感情を直接ぶつけられ、一時的に身が竦む。植物からこれほどの敵対心を感じる経験は初めてだった。
咄嗟に右手を握り、そのまま手をひねる。雑草の根本が千切れ、右手が自由になる。手のひらに雑草がくっついたままだったが、拘束を破る事には成功した。同様に左手も手のひらに粘着した雑草をそのまま握るようにしてそのまま千切る。後は足だけだ。安堵した時、視界の隅で何かが動くのが見えた。咄嗟に上半身を起こし、それを避ける。
目の前を、大きな葉が横切った。大きく切れ込みが入り、鋭利なトゲを持つ巨大な葉。それは断頭台のように振り下ろされ、先程までボクが倒れていたところ目指して叩きつけられる。
ボクは目の前で起きた事態を呆然と見つめていた。断頭台のように葉を振り下ろした植物は、ボクの1メートルほど先に植生し、攻撃的な感情を爆発させている。
危なかった。あの勢いでこの鋭いトゲを持つ葉が垂直に振り下ろされれば、冗談では済まない外傷を負っていたかもしれない。
自然と息が荒くなり、ボクは油断するように周囲の植物を見つめた。粘着性を持つ雑草に紛れるようにして至るところにこの断頭台のような植物が点在している。まるで、外敵を倒す為に寄り添っているかのような植生の仕方。
そっと、足元の雑草を握る。手のひらにへばりついた雑草の上に更に雑草が絡みつく。ボクは右足を上げると、その根本の雑草を引きちぎった。それから慎重に後ろに右足を戻し、残りの左にひっつく雑草を千切った。
拘束が外れ、後退する。ここに群生する植物たちは危険だ。ボクの有する知識と常識を超える動きを見せ、積極的に獲物を狩ろうとする。
両手を見る。ひっついたまま離れない葉。無理に離そうとすると皮膚ごと剥離しそうだった。この粘着性であれば、四足動物をも捉える事ができるだろう。獣害から身を守る為に、この植物たちはここまで進化を遂げたのだろうか。それならば、認識を改めなければならない。
虫も鳥類も見つからなくて当然だ。ここの植物たちは食物連鎖における最低辺の単なる餌ではない。虫や鳥類と対等に戦う事ができる、あるいはそれ以上の競争能力を持つ生物だった。
昨日見た豚男。あれを一撃で仕留めた高木。ボクをそれを見たはずなのに、今までの常識から、この森の植物たちの能力を過小評価していたのだと理解する。あの光景をそのまま評価するならば、二足で歩き回り武器を扱う事が出来るあの豚男よりも、ここの植物たちは更なる高位の存在なのだと考えるべきだったのだ。
得体のしれない感
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