5話 アレチウリ
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性があるんだろう。ねえ、カナメ。そんなものは、初めから必要ないんだよ」
由香はそう言って、右手に持った鶏の死骸を見つめる。
「どれだけ取り繕ったって、世界は弱肉強食なんだ。カナメ、君は正しいよ。でも、それは隠すべきなんだ。大多数は、幻に囚われた弱者であるべきだ。その方が都合が良い。そうだろう、カナメ」
そして、由香は鶏の死骸を投げ捨てて、十一歳とは思えない冷酷な笑みを浮かべる。そこにあるのは、捕食者としての瞳だった。
跳ね起きると同時に、夢を見ていた事に気づく。
辺りはまだ暗い。枝葉の間からは満天の星が見えた。
息をついて、再び寝転がる。
由香。ボクの幼馴染。
彼女は、どうなったのだろう。
キャンプ場から抜けだして、一緒に川沿いを散策していたボクと彼女。気がつけば、ボクだけがこの奇妙な森に迷い込んでいた。
由香はまだ、あの川沿いにいるのだろうか。突然いなくなったボクを心配して、警察に捜索願いを出しているかもしれない。
あるいは、ボクと同じようにこの森の中に迷い込んでいるのかもしれない、と思った。
もし彼女がこの森に迷い込んでいるのならば、ボクよりもずっと上手くやっているだろう。彼女の自然界に対する知識は深く、ボクよりも決断力や判断力に長けているし、何より何事にも動じない冷静さを持っている。
そこまで考えて、無駄な事を考えている、と自覚する。彼女と合流することは、きっと叶わない。下らない空想に耽るほど余裕のある状況ではない。今すべき事は、この森を理解する事だ。
ふと、上を見る。頭上を覆う枝葉によって、途切れた星空しか見えない。月らしいものは、ボクの位置からは見えなかった。めぼしい星座を探してみるが、枝葉が邪魔になって特定することは困難だった。夜空に頼る事は諦めるしかない。
寝返りを打つと、暗い森が見えた。動くものは何もない。神聖さを感じるほどの静謐な森林が、そこにあった。
ボクは目の前の雑草を見つめると、深い考えもなくそれをむしり取った。途端に警戒の感情が発露する。しかし、苦痛に喘ぐ事は決してない。やはり、植物は痛みを感じない。
痛みとは、単なる信号を超えた主観的なものだ。主観は、中枢神経系が作り出す幻に過ぎない。その幻を持ち得ない植物は痛みを覚えない。しかし、その触覚は、人のそれよりも遥かに感度が高い。
人は一般的に二グラム未満の繊維を持っても、それに気がつかない。これに対し、アレチウリのツルは0.25グラムの微細な繊維にも反応を示す。痛みを覚える事は決してないが、植物の知覚能力は人のそれを遥かに凌駕する。にも関わらず、植物は過度な刺激を苦痛とは感じない。何故か。痛みと触覚は生物学的に別の現象だからだ。
例えば視覚を構成する光受容体があるように、触覚にもそれに相当するものがある。機
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