4話 オオオニバス
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量よりも遥かに多い量が蒸散している。蒸散能力が優れているということは、それだけの水を貯蓄する能力があり、加えて一帯が豊かな土地である事を示している。必ずどこかに水源があるはずだった。
スーパーの袋に貯まった水を舐める。味に問題は見られない。少しだけ飲んだ後、ペットボトルを開けて、続けてこちらからも水を摂取する。蒸散した水の安全性が確認できない以上、出来るだけ希釈するべきだった。どれだけ効果があるかはわからないが、慎重になるに越した事はない。
水源を求めて歩きまわる内に、二つの太陽が傾いていく。それぞれが別々の方向に沈んでいくようだった。まるで、絵本の世界のようだ。
ふと、神隠し、という単語が頭に浮かんだ。
突然人が姿を消した人たちは、どこへ消えるのだろう。神隠しの伝承を初めて聞いた時はそんな事を考えたものだが、目の前に広がるこの世界がその答えなのかもしれない、と思った。
この奇妙な森は、恐らくは日本と地理的に繋がっていない。どうしてボクがこの森に迷い込んだのかが分からない以上、帰る方法も明確ではない。楽観的に物事を考える事は危険だ。長期的な遭難になると考えて、動かなければならない。
日没までに水源を見つける事ができないと判断すると、探索の目的を寝床の選定に変更する。この辺りに植生する黒い実の高木は、その自重によって幹が捻れているものが多い。身体が収まるスペースを探すと、すぐにそれは見つかった。周囲には虫の跡もない。腰を下ろすと、疲れがどっと出た。
豚男から奪った斧を立てかけて、バックパックからナイフを取り出す。念のための護身用だ。夜になれば、何が起こるか分からない。
それから、スーパーの袋に溜まっていた水を全て飲み干す。一日に必要な量には達しないが、想像以上の水を蒸散作用から得る事ができた。これに加えて朝露と溢水を利用すれば、最低限の水が確保できる見込みになる。安堵感が胸に広がる。
当面の水の問題はクリアした。後は食料だ。
体力の消耗を抑える為にねじ曲がった幹に隠れるようにして寝転び、目を瞑る。柔らかい草地。それらからは穏やかな感情が感じられ、自然とボクの心も平穏を取り戻した。
重くなる瞼に身を任せ、まどろみの中に落ちていく。
目を覚ませばキャンプ場が広がっていて、すぐそばに幼馴染の由香がいることを願いながら。
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