雪原の戦闘
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は、こちらの事を何も考えない。それで間違えて死ぬのは私らだ。だから上は信用できないというのです」
「ふむ。お前の気持ちもわからない事はない。だが、いまの現状にお前は何が不満なのだ」
「全てです。遊びのような訓練に、勝手に変えようとするシステム――ここは戦場だ。三次元チェスに興じる文官など必要ない」
怒りを込めて呟いた言葉に、しかし、返ってきたのは冷ややかな視線だった。
老兵の青い瞳が、鏡越しにバセットを捉える。
その視線でバセットは冷水を浴びせられたように、言葉に戸惑った。
「訓練と整備だけで一日を過ごす。敵の攻撃されたら真っ先に死ぬ見張りや偵察をする必要もない。もう一度聞くが、それの何が不満なのだ」
「それは……」
「私はもう退官まで死ぬ気はない。君が向上心を持って、不満や不平を述べるのはかまわん。好きにしたまえ。だが、部下やわしらまで巻き込むまれるのは困るね」
「私も上を信頼しているわけではありません」
「そうは見えんがね。もっとこうしてくれれば良いと、そう望んでいるように聞こえるが」
「……失礼しますっ」
老兵に対する答えはなかった。
身体を洗っていた手ぬぐいを手にすれば、カッセルの隣を通って、勢いよく扉を閉めた。
元より立てつけの悪い古い施設。
衝撃によって、大地が振動して、カッセルの手元がぶれた。
その背を見送れば、カッセルは冷ややかな視線をやめて、どこか郷愁を思わせる表情を見せた。
目を細めて、息を吐く。
「やれやれ、怒るくらいに私も若くはありたいものだな」
無理だろうがと呟けば、視線を鏡へと戻した。
そして、悲しげな表情を見せる。
あの当時の年齢で、同じように思っていた自分は、随分と老けた。
そして。
「まあ、それよりも――私のこの髭……どうするの」
カッセルは振動によって半ばまで剃り込まれた髭を、悲しそうに撫でた。
+ + +
「ここにいたのですか、ラインハルト様」
呟いた声に、装甲車の下部にもぐり込んでいたラインハルトは顔だけを声へと向けた。
豪華な金髪も、そして美しい顔も、オイルで汚れている。
下部から這い出して、切れ端で手を拭う。
「訓練はもう終わったのか」
「ええ」
微笑する表情に若干の硬さを感じて、ラインハルトは息を吐いた。
「また何か言われたのか?」
「いえ、何も」
「何もなかったようには見えないな。何があった?」
厳しく尋ねるラインハルトに、キルヒアイスは首を振った。
「本当に何もありませんよ。軍のしごきという奴もたいしたことありません」
「あいつら。次からは私も訓練に出ることにする」
「おやめください。ラインハルト様」
「なぜだ?」
「ラインハルト様はそのよう
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