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空を駆ける姫御子
第二十四話 〜彼女たちのお話 -スバル・ナカジマの章-【暁 Ver】
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と一分ほど停止していた。心の中に疑問と困惑が渦を巻いていく。

──── なんで。なんで、なんで、なんで、どうして、なんで、なんで……こいつが、いなくなってしまった教官のことを調べてるんだ。

 スバルが震える指先で端末を操作して内容を確認しようとした時。オフィスの入り口に人影がいるのを、視界の隅に捉える。今一番、決して見つかってはいけない人物が──── いた。デスクに拳を叩きつけたくなる衝動を何とか抑えこむと、電光石火とも言える早業で端末を閉じ、スバルは物陰へと身を潜めた。件の人物は、こつり、こつりと足音を響かせながらデスクへと近づいていく。

 スバルはまだ、希望を持っていた。何をしに戻ってきたのかはわからないが、このまま身を潜めてやり過ごし先ほどのデータを確認する。スバルの脳裏に、教官がいなくなったと聞いた時のティアナの表情が浮かぶ。だが、スバルの予想に反して気配はまったく動こうとしない。不安になった彼女は物陰から様子を伺った。その人物は。デスクの上から()()を摘み上げる。

──── 飴の包み紙

 スバルは己の迂闊さを呪った。その人物は飴の包み紙を握りつぶすと、訝し気に周囲を見渡し……彼女が隠れている物陰へと歩を進める。こつり、こつり。足音が近づいて来るたびに、スバルの心臓が早鐘を打つ。

「そこにいるのは、誰だ」





 エイジ・タカムラは、不躾に自分の顔へ当てられたライトに表情を歪めた。

「タカムラだったか……こんな時間に何をしている」

「忘れ物を取りに来ただけだ……お前のほうこそ、こんな時間まで主人に付き合ってお仕事か? ご苦労なことだな」

 タカムラをライトで照らした人物──── シグナムは、皮肉にも眉一つ動かさない。桜色した艶やかな髪を後ろで纏め、アスナのように制服を着崩すこともない立ち姿は些か潔癖さを感じさせるが、女性を十分すぎるほど主張している体のラインがそれを打ち消していた。

「以前から言っているが……私にはシグナムという名がある。()()呼ばわりされる謂れはない。タカムラ殿?」

 タカムラの眉が、ぴくりと動いた。シグナムが瞳を細め、タカムラを射ぬく。そんな剣呑な雰囲気を破ったのは、少なくともタカムラにとっては予想外の人物だった。

「……シグナム」

「ん? あぁ、どうした?」

「……はやてが、おなかすいたって、うるさい」

 予想外の人物──── 桐生アスナの言葉を聞くと、シグナムは短く笑う。

「わかった。アスナもこんな時間までつきあわせて悪かったな」

 アスナはシグナムの言葉には何も答えず、入り口からオフィスを見渡す。オフィスの一角を少しだけ長く見つめていたが、すぐにいつものような茫洋とした視線に戻った
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