”狩人”フリアグネ編
五章 「紅世」
[1/9]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
はぁ〜、とため息が出る。現在、四時限目の英語の授業も終わりに差し掛かっていた。さて、通常の学生なら昼休み目前の為、浮き足立つ時間帯だ。しかし、この教室でその様な反応を示す者は誰一人も居ない。
ちなみにだが、一限目のテストはどうにかやり過ごした。範囲も分からない状態で、受けるのはもう懲り懲りではあるが。しかし、学生時代の勉学の日々は無駄ではなかったらしい。こういう事は後になってから学んでいて良かったと思うらしいが、全くその通りだな。
さて、現実に目を向けよう。教室の空気は緊張に包まれている。クラスメートは教科書に顔を隠し、最初は通常通りの授業をしていた教師も、今はひたすらに板書を続けていた。
この異様な空気は、教室の真ん中で、シャナが圧倒的な存在感と迫力で作り出している。
しかし、別に何かをしているという訳ではない。ただノートもとらずに、腕を組んで教師を見ているだけだ。奇っ怪な何かをしているのなら、まだ気が楽だったんだがな。
その視線はまるで、野生の動物を観察しているかのように遠慮が無く、敬意や尊重を全く含んでいなかった。正直、いくら俺でもあんな目を直視したくない。
そんなシャナの不遜な態度に、我慢を続けていた英語教師は、とうとう我慢仕切れずに、板書を終えて黒板から振り向いた。
いや、よく耐えたよアンタ。他の教員と比べたら……だけどな。
ちなみに坂井悠二の記憶と照合した所、この教師は教え下手らしい。しかも宿題が多いという事で、生徒から嫌われているとの事だ。残念だが、俺から見ても教え下手だと思う。あの教師かどうかも怪しい藤ねえですら、この教師よりは理解しやすい授業をしていた。
まぁ、なんだで藤ねえは立派な教師だったんだけどな。人望もあったし。
人気か不人気かはともかく、シャナのあの態度だと腹が立たない方が逆に凄いと思う。教師だって人間なんだし、あの態度は………堪えるよな。
「平井、お前、不真面目だぞ、ノートを取らんか!」
振り返った教師はシャナに注意した。声は裏返っていたが俺はその勇気を讃えたい。
ちなみに、区切れ区切れの言葉の語尾は全て裏返っている。これでは威厳もクソもない。緊迫した空気の元凶の矛先が自分達に向かなくなると確定したのもあり、教室ではクスクスと笑い声も聞こえた。
その注意に、周囲の認識するところの“平井ゆかり”すなわちシャナは答えなかった。ただ言い放つ。
「お前」
ちなみに第一声はこれだ。その、見かけの幼さにはあまりに不釣り合い、しかも押しのある凛々しい顔立ちは、静かな気迫を発している。
「その穴埋め問題……、全然意味の無い場所が空いてるわ。クイズをやっているんじゃないんだから、前後の文脈で空欄を類推出来ないと意味がないわ」
シャナは腕組みも解かずに言う。
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ