暁 〜小説投稿サイト〜
炎髪灼眼の討ち手と錬鉄の魔術師
”狩人”フリアグネ編
五章 「紅世」
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をしたかった訳じゃないが、シャナの言う事もまた事実だった。だが、未だに納得がいかない自分が居るのも確かだ。
 彼等が自覚するかはともかくとして、せめて、坂井悠二と同じ様な結末を迎える事は阻止しなければならない。
 そこで、ふと思った。一般生徒を巻き込みこみたくないなら、早退してしまえば、ここは戦場にならない。

 これが、これから取るべき行動の一番単純な解答だ。しかし、立場上『学生』の俺を相手に、敵は一般生徒を人質にする可能性がある。
 そうなると、一般生徒を防衛出来る筈がない。なら、夕方の間はここに残り、一般生徒の防衛に回った方が良いのではないだろうか?
 即座に思考を巡らせる。
 最良の策が常に最善だとは言えない。あえて愚策を採った方が結果的に最善だったという可能性もある。
 この場合、俺が人混みに紛れている事で周囲を危険に晒すリスクがある。しかし、逆に俺の目の届かない範囲での敵の横行を防ぐ事によるメリットも発生する。
 俺の独断で周囲を危険に晒して良いものか? その思案による、微妙な間が更に誤解を呼ぶ。
「やっぱりやましい所があるな?」
 池のメガネが煌めく。
「ああいう子に手を出せる神経を見込んで、話がある。是非、他の女子とも渡りをつけてくれ」
 佐藤がとても真面目に図々しい懇願をしてくる。
 仕方がないので、適当にあしらって思案を続けた。
 どのみち、俺一人で全てを守りきれる訳がない。だが、この場に居なければ救える物を救う事すら出来ない。
 逃げずに、あえて立ち向かう。遠坂なら―――、きっとそうするんじゃないだろうか。

「このムッツリが! 一体どういう手管を使った!! 教えデッ―――!」
 詰め寄ってくる田中に制裁を加えて、俺は思案を終了した。
 友人達との他愛もない会話。まぁ、後半は佐藤と田中の欲望にまみれた会談の様なものだが。
 しかし、それはとても平和で日常的な光景だった。



 ―――――少し考え過ぎていたのかもな。
 思えば簡単な話だ。今の俺に救える範囲は、坂井悠二が生きてきた、この日常だ。
 始めから多くを望んだって、人間に出来る事なんてほんの少しの事だ。少しずつ、確実に範囲を拡げていけば、より多くの人を救う事が出来る。
 だからまずは『坂井悠二が生きてきた日常』を守る。ただ、それだけじゃないか。


 小難しく考えていたって、何も始まらない。出来る事からやるしかないんだ………。


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