第六十話 嵐の前その五
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「あんたもな」
「そうだがな」
「それであえて聞くかい?無駄じゃないかい?」
「無駄でもだ。聞いた」
「念の為にかい」
「やはり降りないか」
「目的は違うにしても同じ理由でな」
願いを適える、その為にだというのだ。
「俺も降りる訳にはいかないさ」
「俺もだ。それならだな」
「まあ日曜な」
その夜の十二時にだというのだ。
「八条学園の総合グラウンドでな」
「また会うことになるな」
「で、また話すことがあるかい?」
「いや」
広瀬は中田の今の問いには首を横に振って返した、彼が中田と話したいことはこれで終わったというのだ。
「これで帰る」
「そうか、じゃあ俺はもう少し稽古をしておくな」
「素振りか」
「これとランニングは欠かさない主義なんだよ」
「だが今日は特にだな」
「どうしても気合が入ってね」
戦いのことを考えてのことである、言うまでもなく。
「それでだよ」
「成程な、それで疲れを溜めるか」
「そこはちゃんと寝るさ」
そうした身体を休めもするというのだ。
「だから大丈夫さ」
「なら日曜だ」
「またな」
中田は右手に持っている木刀を袴の腰の紐のところに挿して空いた右手で挨拶をした、広瀬は目で会釈をして道場から消えた。
中田はそれからまた汗をかいた、そうしてこの日を過ごしたのだった。
十二人の剣士達が一堂に会いする日は迫っていた、その中においても。
加藤は相変わらず戦っていた、今日も怪物を倒していた。
獅子と山羊の頭、それにだった。
尾が蛇の姿だ、上半身は獅子で下半身は山羊だ。
その異様な姿の怪物と闘っていた、怪物は炎を吐くが。
加藤は剣を前に突き出してそこから放った魔の矢で炎を打ち消した、そのうえで上に跳び。
前に宙返りをしつつ怪物を唐竹割りにした、そうして怪物を倒して黄金を手に入れると。
声が言って来た、その黄金を手に入れた彼に。
『貴方はいつも通りですね』
「闘っているというか」
『はい、他の方はそれぞれ思うところがある様ですが』
「俺は戦えればそれでいい」
これが加藤の返答だった、迷いはそこにはない。
「だからだ」
『では日曜のことも』
「楽しみだ、それだけだ」
『ですか』
「俺は相手は誰でもいい」
『先程倒したキマイラでも』
「戦いたい、戦いこそが俺の最高の楽しみだ」
彼の嗜好だ、それこそが彼の趣味なのだ。
「それならだ」
『ぶれませんね、貴方は』
「ぶれないか」
『はい、迷いもなく』
「迷う趣味はない」
このこともはっきりと言い切る、やはり何も躊躇はなく。
「戦いで迷えばそれだけで死に至るからな」
『それはその通りですね』
「そういうことだ。そしてだ」
『そしてとは』
「今日はまだいるか」
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