第六十話 嵐の前その三
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「待っててね」
「そうするわね」
「笑顔で戻って来るよ」
その笑顔での言葉だ。
「またここにね」
「そうしてね、本当に」
「うん、じゃあ」
「食べて力をつけて」
そしてだというのだ、樹里はまた話した。
「そうしてね」
「この美味しいカレーや酢漬けを食べてね」
「カレーってやっぱりいいわよね」
「栄養摂りやすいよね」
ただ味がいいだけではない、この点でも優れている料理なのだ。
「一杯食べられるし」
「本当に一杯食べてね」
「そうさせてもらうね」
上城はまた笑顔で応えた、そしてだった。
まずはカツカレーを一杯食べ終えた、樹里はその上城に言った。
「おかわりする?」
「あるんだ」
「ええ、カツもね」
それもあるというのだ。
「あるけれどどう?」
「それじゃあね」
「今はたっぷり食べてね」
「それでだよね」
「帰って来てね」
再び切実な顔になり彼に言う。
「力をつけて」
「うん、そうするよ」
上城は意を決した顔で樹里の言葉に頷いた、そうしてだった。
今は二人でカツカレーと他のものを食べる、そのうえで戦いに思いを向けていた。
戦いのことを思うのは中田もだった、彼は剣道部の部活が終わってもだった。
道場に一人残る、その彼に部長が言った。
「今日はまだ帰らないのか?」
「はい、もう少しだけですけれど」
二刀流で素振りをしながら部長に応える。
「稽古をしていこうって思ってます」
「一人でもか?」
「素振りに後は切り返しに」
そうしたものをしてだというのだ。
「稽古してから帰ろうって思ってます」
「そうか、じゃあ道場と部室の戸締り頼むな」
「はい」
「俺はもう帰るからな、それじゃあな」
「さようならです」
先輩である部長には親しく且つ礼儀正しく挨拶をした。道場に一人になっても道着のまま汗をかきつつ素振りを続けていた。
その彼のところにだ。ふらりとした感じで。
広瀬が来た、中田はその広瀬に顔を向けて問うた。
「珍しいな、乗馬部が剣道部の道場に来るなんてな」
「そうだろうな。俺もここに来たのははじめてだ」
広瀬は入口で靴を脱ぎ靴下で上がりながら道場の端の方に立っている中田の方に来てそのうえで言った。
「はじめてだがな」
「いい場所だろ」
「熱気があるな。人の気配が残っている」
広瀬は周囲を見回しつつ述べた。
「それも長年に渡ってのものだ」
「古い道場だからな」
中田は既に素振りを止めている。そのうえで広瀬に顔を向けて言うのだ。
「それもな」
「当然のことか」
「言うならモルツだよ、ここは」
こう例えてみせたのだった。
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