第二部
第一章 〜暗雲〜
九十七 〜嵐の前の静けさ〜
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「そうか……」
書簡を手に、協皇子は肩を落とした。
「逆賊董卓と土方を討つべし。……姉上の本意とは思えぬのじゃ」
「無論です。逃げ延びた張譲らあたりの差し金に決まっておりますぞ」
盧植も、憤りを隠そうともせぬ。
「ですが、勅令はもう出てしまっています。……戦いは避けられません」
「それで良いのか、月」
「いい筈がありません。私だって、こんな無意味な戦なんてしたくありません」
「そうじゃな……。土方」
「はっ」
「私は、姉上を戦わねばならぬのか? 張譲らはともかく、姉上と争いたくはないのじゃ」
「では、如何なされます? 拙者と、月の首を差し出しますか?」
「馬鹿を申すでない! 二人を見捨てる気なら、最初からこの場にいる訳がないのじゃ」
「ご無礼仕った。ならば、一戦交える他ありませぬ。……今ひとつ、手立てはありますが」
「ど、どのような手じゃ?」
身を乗り出す協皇子。
「恐れながら、拙者と月、揃って洛陽を離れる事にござる。さすれば、殿下に刃を向ける輩もおりますまい」
「私が、此所に残るじゃと? では、洛陽を出て如何するつもりじゃ?」
「荊州を突破し、交州に戻ります。我が本拠地にて、諸侯を迎え撃つ事に相成りましょう」
「……それしか……それしかないのか、土方よ」
「拙者も月も、殿下を巻き添えにする事は望んでおりませぬ。また、殿下を大義名分として利用したくもござらぬ」
協皇子と盧植は、沈痛な表情になる。
「土方殿。仮に交州に戻るとして、勝算はおありか?」
「こればかりは、やってみなくてはわかりませぬ」
蔡瑁が、黙って通過を見逃すとは思えぬ。
強行突破を図ろうにも、荊州は広大。
それに、糧秣の補給が望めぬとなれば、我が軍の被害も覚悟せねばなるまい。
そうなれば、当然荊州の庶人にも要らぬ苦しみを与える事になるであろう。
果たして、月がそれに耐えられるであろうか……。
「……土方。月」
「はっ」
「はい」
協皇子は、覚悟を決めたようだ。
「姉上を、姉上を救って欲しい。例え戦う事となっても、それで姉上が救われるのならば……」
「確約は出来ませぬ。が、最善を尽くす事は誓いまする」
「……我が真名は杜若じゃ」
「え?」
月が、目を丸くする。
「聞こえたであろう? 我が真名で呼ぶ事を許す」
「殿下、しかしそれは」
私の言葉を、協皇子は手で遮った。
「良いのじゃ。このぐらいしか、お前達に応えてやれぬのじゃ」
私と月は顔を見合わせ、そして頷き合う。
「……では、確かにお預かりしますぞ。杜若様」
「……私も、父と力を合わせて、杜若様の為に努力致します」
「うむ」
盧植が、そっと目元を抑えていた。
存外、この老人も涙もろいと見えるな。
それからは多忙な毎
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