前途多難
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セルを一目見れば、悪戯がばれた子供のような顔を浮かべた。
「小隊長。お注ぎします」
どうするかと考えたところ、前に立つ人間がいた。
短く刈りあげた頑健そうな青年。
年のころはアレスと同じか少し下であろう。
頬についた傷が青年が戦場に出ていた事を示している。
引き締まった筋肉がシャツの上から盛り上がって見えた。
それがウィスキーを持って、前に立っている。
カッセルを見れば、アレスの視線の意味がわかったように、頷いた。
「グレン・バセット伍長です」
「ああ。伍長、ありがとう――少しでいいよ」
そういって差し出した器には、なみなみとウィスキーが注がれる。
バセットを見れば、黙ってアレスを見ていた。
苦笑し、飲み干す。
熱い液体が身体に流れた。
そして、再び差し出されるウィスキーの瓶。
「いや。もういい……飲み過ぎると悪いからね」
「お注ぎします」
「いいといったはずだが?」
「卒業したての新任小隊長は、酒はあまりお得意ではありませんか?」
「苦手ではないが」
「なら……」
再び注がれる液体に、アレスは思案する。
一度ため息を吐いて、再びそれを飲みほした。
「少しは飲めるみたいですね、小隊長」
「ああ、少しはね。だからこれ以上は勘弁してもらいたいな」
代わりに返杯をしようとして、バセットは微笑を浮かべただけだった。
「結構です。私は仲間の酒しか注いでもらわない」
「伍長」
カッセルが厳しい視線を向ければ、アレスは頭をかいて苦笑する。
「酷い言葉だな。じゃ、注げるようにこれから頑張るさ」
「期待しておりますよ、小隊長」
呟いて戻る背中を見て、アレスはため息を吐いた。
平和な退職を望むタヌキ親父に、最初から喧嘩腰の伍長。
これが二つしかない分隊の、それぞれの分隊長であるというのだから。
「前途は多難だな」
ため息を吐いて、アレスは酒を口に含んだ。
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