前途多難
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ける人間。例え軍曹が認めたからといって、自分の目でも少しは見たいと思うでしょう。でも、誰も近づいてこようとしない。あなたが持ちあげるまで近づくなとでも言ったのではないですか?」
違いますかとの問いかける視線を受けて、カッセルが目を開いた。
その表情はまさしく図星を指された様子で、否定の言葉も浮かばない。
「あっはっはっ!」
カッセルは笑った。
声に出して笑う言葉に、周囲の喧騒があっという間に引いた。
静かになった宴会の席で、響くのはカッセルの笑い声だけだ。
その笑い声に周囲が戸惑いとともに、ざわめき始めた。
「いや、はは。失礼――」
何でもないと周囲にカッセルが伝えれば、隊員たちも戸惑いがちではあるが、再び酒を飲み始めた。
それでも周囲の意識がアレス達の方に向いているのがわかる。
何を話しているのか。
先ほどまでのバカ騒ぎよりも、少し小さくなったざわめきの元で、カッセルは手ぬぐいで涙を拭いながら、日本酒をお猪口に注いだ。
飲み干す。
「その通りですな。確かに我々は死ぬ気などない」
続いた言葉に、アレスは黙って話を聞いていた。
周囲に聞かれぬように小さく呟いた言葉。
それは微かにアレスの耳に入ってくる。
「あなたならもうお分かりでしょう。この特務小隊は小隊長の赴任に伴って急遽作られた臨時の部隊。各部隊から選りすぐられた不適格者の集まる場所」
正直な言葉にアレスは特に驚かず、ウィスキーを口にする。
任務すら与えられていない部隊に、優秀なものが配属されるわけがない。
使えそうもないものを押しこんだ。
それが正解なのであろう。
「少尉。私はもう五十九になります。残すところ一年を切りました――もう死ぬよりも退役して孫を抱いてやりたい。そう思います、駄目ですかな」
「死にたくないというのは別に間違えてはいないでしょうね」
「ええ。他のものも同様です。私などよりも遥かに若いが、死ぬのが恐いもの。毎日繰り返される殺し合いにうんざりしたもの――上への不信感を持ったもの。理由は様々ですが、戦場では役には立たない。そう判断されたものが集められた」
しみじみと呟いて、カッセルは再び日本酒をあおる。
「そんな者たちに、小隊長は死ねと命令いたしますか?」
+ + +
タヌキ爺。
アレスはカッセルの言葉に答える言葉はなかった。
カッセルの言葉は事実。
だが、それを伝える事でこちらの士気を折りに来た。
アレスがいくら騒いだところで、すでに彼らの評価は地面すれすれで代わる事などない。
暖簾に腕押しであれば、さっさと別のところに転属したいと思うだろう。
そして、彼らもそれを望んでいる。
人生経験だけは無駄に豊富な様子に、カッ
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