暁 〜小説投稿サイト〜
皇太子殿下はご機嫌ななめ
第40話 「番外編 ちょっとだけ前の事」
[2/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
っくりと開かれていく。
 振り返ると女官姿の女と目が合う。
 黒い髪。鋭い眼光。引き攣ったような口元。暗殺のために訓練された者特有の、荒んだ気配。
 ルードヴィヒの口元に笑みが浮かぶ。
 楽しげな笑みを見た女の動きが、一瞬戸惑ったように止まった。
 その隙を逃さず、ルードヴィヒは脱出口に飛び込む。
 狭い空間の中を、ガラガラと音を立てて落ちていく。
 頭上をブラスターの火線が通り過ぎていった。
 女も飛び込んでいたようだ。狭い空間を二人が落ちていった。
 一足先に、底に到着したルードヴィヒがそばにあった銃を手に取る。昔使っていた火薬式とは違うが、グリップはスッと手に馴染んだ。

「舐めんなっ!!」

 脱出口に向かって引き金を引く。
 幾重にも重なり、貫く光。
 この程度で死ぬとは思っていない。
 ただ黙って殺されるような甘ちゃんと、思ってもらっては、困る。
 そして再び、ルードヴィヒは姿を隠した。

 ■         ■
 
 女が底に到着した。
 暗い部屋の中にルードヴィヒの姿はない。
 見えなかった。
 舌打ちをした。

「こそこそと逃げ回るとは、それでも銀河帝国皇太子かっ!!」

 女があざけるような声を上げる。
 馬鹿にした声だ。
 だが部屋の中からは、物音一つしない。
 うまく気配を消している。
 バカにされて、それですぐに頭に血が上って、飛び出してくるような門閥貴族のバカ息子と、皇太子は違うようだ。
 それどころか場慣れている。
 女の顔に、初めて緊張が浮かび、首筋に汗が流れ出す。
 一歩、足を踏み出した。
 足のつま先に、鋭い痛みが走った。
 目を向けると、そこには鋲が撒かれている。尖った先を上に向けられて撒かれている。
 殺意。
 女は皇太子が、自分を殺そうとしている事を感じた。
 抵抗しているのではなく。殺し合いをする気なのだ。
 自分が狩る側ではなくて、狩られる側になった事を初めて知った。
 女の顔に怯えが走る。
 足が竦んだ。
 それでも引き金を引く。
 皇太子の姿は見えない。
 だが反射音で居場所が分かった。

「そこかぁ!!」

 女が吠えた。
 痛みを堪え、憎しみに彩られながら、女は走る。
 薬を使っているのか、調度品を素手で、破壊しながら皇太子に向かい走る。
 鏡を打ち壊す。
 銀面が砕け散った。
 女の目に飛び込んできたのは、拳だった。
 みちっと嫌な音が聞こえる。
 骨を砕く音ではない。肉を打つ音だ。
 鼻が潰された。
 呼吸が苦しい。

「がぁっ!!」

 女の足が跳ね上がった。頭上から襲い掛かる。
 皇太子が左腕一本で、女の足を受け止めた。笑みが浮かんでいる。

「ぼけっ」

 軸
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ