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レンズ越しのセイレーン
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Report10 ハルモニア
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 その子は、飛び立つ白いカモメの群れと、きらめく大洋を背に。

「ワタシは言うよ。いつかとーさまに会えた時。産んでくれて、ありがとう、って」

 少女らしい幸せ満面の笑顔を、ユリウスに向けてくれた。



                    〜*〜*〜*〜



 ユリウスたちが「審判の門」に辿り着いた時、すでにビズリーとクロノスの決着は付いていた。

 ビズリーがクロノスを無力化したことで、カナンの地の天が晴れた。ルドガーとミラは急いでエルに駆け寄って、エルを抱き起こす。
 左半身がほぼ無機物化した幼子は、ユリウスから見ても痛々しかった。

「だって……ルドガー、『橋』にされちゃうって思ったから……こわかったけど、ひとりで……」

 ミラがエルの小さな手を握り、ルドガーがきつくエルを抱いた。

「――ねえ、ルドガー……ユティはいないの?」

 ルドガーはもちろん、ミラや、ジュードたちもくっと俯いた。

「ユティ、言ったよ……ルドガーを絶対むかえに行かせる、って……いっしょじゃ、ないの?」
「ユースティアは死んだ」
「……え」
「俺たちをここに渡すために、自ら『魂の橋』になって」
「う、そ」

 そんな、と身を乗り出したエルだが、すぐ因子化の痛みに蹲る。ミラが慌ててエルを支えた。

 ユリウスは一人先んじてビズリーの正面に立ち、双刀を抜いて構えた。

「娘を『橋』に捧げたか」

 捧げられた、貰った、贈られた。どんな形容であれ、ユティの最期にふさわしくない気がした。
 だから、ユリウスは答えず、ビズリーまで駆けて双刀を振り抜いた。

………

……




 辛勝だった。

 自身が戦いの最中でスリークオーターにレベルアップしたことに加え、ルドガーの仲間が尽く実戦に強い人間ばかりだったことが、辛うじてユリウス側に勝利をもたらした。

「ルドガー……お前はぁ!!」
「ルドガー、後ろ!!」

 ビズリーは往生際の悪さを発揮し、寄り添い合うルドガーとエルに拳を上げようとした。だがそのような行いはユリウスが許さなかった。

 ユリウスは寸前でルドガーらを庇って、ビズリーの喉笛に右の刀を突きつけた。

 これが本当にこの男の最期。話し合って和解することも、さらに戦うこともない。ユリウスが、この手で終わらせるから。


 ――遠い昔。この人に憧れ、認められることだけを目指して力を極めようとした。この人が自分を利用する気なのだと知った時は、正史のはずのこの世界が崩れたようにさえ感じた。それだけ絶対だった――父親。


 ――“ワタシは言うよ。いつかとーさまに会えた時”――


「サヨナラだ。――――()()()|ん《
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