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まぶらほ 〜ガスマスクの男〜
第五話
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「むしろ一年前まで使ってたの!?」


 驚きだ。お仕置き部屋ということは……そういう用途、なのだろうか。


 言い知れない感情が込み上げてきた。一番近い感情で言うと――不安?


 無意識のうちに、口を開いていた。


「……リーラも、その……あの部屋を?」


 リーラが振り返った。少しだけ目を大きくしている。


 それから、ふっと優しく微笑んだ。それは愛する子を安心させるため、母が浮かべるような慈愛の微笑みだった。


「いいえ。わたくしはあの部屋を使用したことはございません」


「そ、そう……」


 な、なんだろう。ちょっと安心しちゃったかも……。


「わたくしが肌を許した殿方はおりません。たとえご主人様といえどそこに例外はございません。わたくしの肌を見てもよいのは――」


 不意に言葉を切った。大きく呼吸を整えている。


「――いえ、失礼しました」


「そう?」


「はい。ただ一つだけ、覚えておいてください。私が肌を許すのは後にも先にも一人だけです」


 どういう意味だろう。恋人……ってことかな?


 それはそうだよね。こんな美人なんだもの。恋人の一人や二人いて当然だよね。むしろいない方が不自然かも。


 一人うんうん頷いていると、リーラは鍵を元の場所に戻し再び先導を始めた。






   †                    †                    †






 地下室を出たら、今度は階段を上る、上る、上る。


 上り詰めだった。エレベーターが欲しいと思ってしまう俺は現代っ子のあかしなのだろうか。


 上っているとテラスのような場所に出た。城の中程にあり、外に張り出している。


「いい景色だなぁ〜」


 天気は良く、眼下に見えるジャングルと青い海が目にまぶしい。


 吹き抜ける風が気持ちよかった。


「こちらへ」


 リーラに促されて後に続く。


「ん? エーファ?」


 テラスの片隅には真っ黒な機関砲が接地されていた。かなり大きく、四本の銃身が空へ伸びている。


 その傍らには見覚えのある女の子がいた。エーファだ。


 俺たちの姿に気が付くと、さっと顔を伏せた。


「顔を上げろ」


 リーラが怒ったように言う。力なく俯けていた顔を上げた。


「はい……」


「……どうしたの?」


 なんだか元気がない様子だった。もともと内気な姿勢を見せていたが、今は目に見えて元気がない。残業明けのサラリーマンより疲弊した様子だった。


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