歓迎
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子供は大きくなっただろうか。
妻は元気にしているだろうか。
もう二度と抱く事はできないのか。
なぜ。
手にした手紙に皺が寄り、思わず破りかけた手を止めた。
「私は何か悪い事をしたか」
呟いた言葉は、自嘲めいている。
帝国のために敵を殺し、何度も死線を駆け抜けた。
怪我をした事は何度もあるし、親友だった男が目の前で頭を吹っ飛ばされたのも見た。
それでもヘルダーは帝国のため、同盟と戦い続けてきた。
その結果が、このカプチェランカの司令官であり、貴族からの脅しである。
訴えたところで、解決するはずもない。
ヘルダーは奥歯を噛んだ。
憎かった。
地位の前には自分など何ら意味がない現実が。
のうのうと寵妃の弟という事で軍に入っている金髪の小僧が。
命令に従う事を当たり前と思っているベーネミュンデが。
怒りにまかせて叫びたくなる現実を、ヘルダーは大きく息を吸って我慢する。
いいだろう。
貴族様が俺にそうしろというのであれば、してやろう。
貴族の小僧を一人殺すことなど、ヘルダーにとっては罪悪感すら生まない。
今まで同じように、貴族の命令で何百人もの同盟軍の兵士を殺してきたのだから。
それと何ら変わらない事。
ただ、今回は味方にも知られてはいけないというだけであるが。
「そうなると自分一人では少し手に余るな。誰か適任を探さなくては」
この任務は単に優秀な者に任せるわけにはいかない。
副官のマーテルの名前が浮かび、すぐにヘルダーは頭から消した。
奴は駄目だ。
生真面目すぎるし、何よりも度胸がない。
知らされれば、すぐに公にして自分の立場を守ろうと考えるだろう。
だとすると、ゲルツかフーゲンベルヒか。
誰もいない室内で、一人ヘルダーは考え続けた。
+ + +
雪を払って自室でシャワーを浴びてから、顔合わせのところに行けば、既に飲み会が始まっていた。
何だこれは。
想像していた場所とは違う
「あ、小隊長。時間が過ぎちゃったんで、もう始まってますっ」
ウィスキーの瓶を片手に、若い男が笑っていた。
時計を見れば約束の六時を確かに一分ほど過ぎている。
しかし、それは一分で酔える量じゃないだろう。
ウィスキー一本を一分で空にするのか。
説明を求めるために周囲を見れば、およそ二十名ほど。
自由惑星同盟の正規小隊の部隊数からすれば、半分程度の数が、こちらを見もせずにわいわいと酒を飲んでいた。
騒がしい室内に目を走らせれば、退役寸前と思しき老人が一人ちびちびと日本酒を口にしている。白髪の髭を日本酒で濡らし、顔を赤らめて、実に幸せそうだ。
周囲の様子から、格が一番上であるらしい。
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