暁 〜小説投稿サイト〜
フェアリーテイルの終わり方
二幕 エルの妹
3幕
[1/2]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 ルドガーやジュードたちと席が離れたローエンだが、同席のエリーゼとアルヴィン、それにフェイと歓談に興じていた。
 もっともフェイは自発的にしゃべらないので、ローエンたちが話しかけてフェイの返事を聞き、また質問、というやりとりをくり返していた。

「エリーゼ。アルヴィン。ローエン。――フェイ、ちゃんと覚えてる」

 何の話題だったか。フェイがこちら側の名を覚えているかという話になった。一人一人を指さし確認するフェイは幼児を思わせた。

「じゃーあっちは?」
「ジュード、レイア、ルドガー……」

 ふいにフェイの指が停まった。ためらいにためらいを重ねて、小さな声が最後の名を呼んだ。

「エル」

 それっきりフェイは俯いた。膝の上では固く両手が握り合わされている。隣のエリーゼがフェイの二の腕を撫でる。

「どうしました? 気分、悪くなったんですか?」『辛そうだよー』
「……思い出してた。わたしの姉さん」
「フェイさんにはお姉さんがいらっしゃるのですか」
「いた。もう、会えないけど」

 何故会えないのか。それを追求しない程度には、ローエンは心得ていた。アルヴィンも、エリーゼも。

「じゃあフェイはご両親とお姉さんと4人で暮らしてたんですか?」
「ううん。二人とわたし」

 妙な数え方にエリーゼが首を傾げる。

「母さんはコドモの頃に死んじゃった。あの家に住んでたのは父さんと姉さん。わたしは置いてもらってただけだった」

 するすると出てきた自己を否定する言葉に、さすがローエンたちも息を呑まされた。
 フェイ以外に気まずい沈黙が訪れる。

「エルを見てると、姉さん、思い出す。今までどんな女の子見ても、こんなことなかったのに」
「ひょっとしたら、エルさんはフェイさんのお姉さんに似てるのかもしれませんね」

 前髪の隙間から覗いた、アルビノラビットに似た赤眼が、ぱちくりした。

「エルが、姉さんと」

 フェイは向こう側の座席をぼうっと見やった。

「――そう、かも」




 当のエルはルドガーの膝枕とルルたんぽでぐっすりお休み中である。
 こちらの視線に気づいたルドガーが、苦笑して人差し指を口に当てた。ローエンは笑って頷き、アルヴィンは肩を竦めて返事に替えた。

 そんな中、唐突にエリーゼが座席を立った。エリーゼは座席を抜けて通路を走っていった。

 何事かとローエンとアルヴィンは顔を見合わせ、待っていると、戻って来たエリーゼは手に数種の菓子を持っていた。
 エリーゼはその内、チョコレートをずい、とフェイに差し出した。

「くれるの?」
『エリーゼはー、フェイと友達になりたいんだってー』

 得心した。エリーゼのこれは精一杯のエール。家族のことで辛い
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ