第百四十五話 安土築城その七
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「天下を治めるのは御館様以外におられませぬ」
「そうじゃな、それではじゃ」
「織田家をですか」
「そうじゃ、これは大義を得られる」
信長と戦うそれがだというのだ。
「その為にこの文は大きい」
「では」
「うむ、この文は読んだ」
そうしたというのだ。
「しかしどうするかはまだじゃ」
「決めておられませぬか」
「そうじゃ、織田家は大きくなった」
「遂に朝倉も降しましたし」
八百八十万石だ、武田も二百四十万石だが大きさが違い過ぎる。
「かなりのものです」
「武田家だけではどうにもならぬ」
それでだというのだ。
「今は織田家とは揉めぬ、時が来ればな」
「その時にですか」
「この文を使いじゃ」
大義として使いそのうえでだというのだ。
「堂々と上洛して織田家と雌雄を決するわ」
「では今は」
「今はせぬ、負けぬ戦はせぬことじゃ」
これもまた信玄の深謀だ、慎重な彼は迂闊に相手を攻めることはしないのだ、それも絶対にである。
「わかったな」
「はい、では」
「御主はまだそういうことはか」
「やはり好きにはなりませぬ」
信義を絶対と考える幸村にとって盟約の相手を裏切ることはどうしても抵抗がある、しかしそれ以上に信玄への忠義と彼への信頼があった。彼こそが天下を治められるという確信がだ。
だからだ、彼はこう言ったのである。
「ですが御館様のお考えならば」
「頷いてくれるか」
「はい」
その通りだというのだ。
「そして共に」
「戦ってくれるな」
「そうさせてもらいます」
こう確かな声で言うのだった。
「是非共」
「ではその言葉と心受けさせてもらう」
幸村は正面から言い信玄もだった、正面から言葉を交えて。
そのうえでだった、今はこう言ったのである。
「今は備えよ」
「はっ、それでは」
「その時まで」
「皆己と兵を鍛えよ、そして国を治めよ」
今はそうせよというのだ。
「そしてその時が来ればじゃ」
「その時こそですな」
「我等の上洛の時ですな」
「孫子の旗を都に立てよ」
こう言うのだった。
「ような」
「畏まりました」
「さて、ではこの文は置いておこう」
その大義をというのだ。
「今は見させてもらうか」
「その文は他の家にも送ったでしょうか」
穴山がこのことを問うた。
「公方様は」
「そうであろうな、上杉や北条、毛利にもな」
「やはりそうですか」
「当家だけではどうにもならぬことは一目瞭然じゃ」
義昭も充分承知していることだというのだ。
「それならばな」
「ではやはり」
「他の家も成り行きを見るであろう、じゃが」
「だが、とは」
「大名にだけ送ってはおられまい」
信玄はこのことも読んでいた、やはりその目は千里眼の如きだ
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