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空を駆ける姫御子
第二十一話 〜休日と嫌な予感 後編【暁 Ver】
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一撃加えると、キャロを庇うように着地した。

 着地する瞬間、敵に頬を切り裂かれるが、エリオは──── 挑発するように不敵に笑った。そしてエリオは自分を心配するキャロを安心させるように──── 優しげに微笑む。……ちょっと将来が心配になるわね、エリオは。

 視界が晴れた常闇から、陽炎のように姿を現したのは……人ではなかった。頭もある。体も四肢もある。だが、これを人とは呼ばないだろう。人の形をしている。唯、それだけだ。

「……でっけー虫がいる」

『昆虫に近い姿だね。昆虫を素体にした使い魔なのか、最初からこういう生き物なのかは、わからないが』

 虫? ……言われてみれば、確かに虫に似ていないこともない。虫の外骨格を着込んだ人のような姿。可能性があるのは、ボブの言った通り使い魔か召喚か。どちらにしても近くに召喚した人間がいる可能性が──── 召喚? あたしが記憶の海から何かを掴みかけたとき。視界の隅にレリックのケースが映る。先ほどの攻撃でキャロが手放してしまったようだ。幸いにも人型はエリオと睨み合っている。あたしは迷うことなくケースへと走り出した。

 ケースまで、後二メートルと言うときに。目の前に──── 人型がいた。驚愕に思考が止まる。あの距離を一瞬で移動したのか。アスナよりも遙かに無機質な瞳に捉えられたあたしは、場違いにも意外と綺麗な瞳だなと思ってしまった。次の瞬間には大砲のような蹴撃を胸に受け──── 地下水路の壁へ叩きつけられた。

 叩きつけられた反動で無様にも、受け身も取れずに前へ倒れ込む。血の味がする。倒れた時に顔から行ったのが不味かった。息が出来ない。酸素を求めて必死に呼吸する魚のように口を開ける。あたしの名を叫びながら駆けつけてくれたスバルの泣きそうな顔を見つめ、何とか言葉を吐き出した。

「大丈、夫よ。はぁ、そんな、ことより気を抜いちゃ」

 あたしが懸命にそこまで言ったとき──── 空気が断末魔の鳴き声を上げた。

「やっば……」

 スバルが顔を青くする。あたしは先ほどとは違う意味で呼吸が出来ない。エリオやキャロも酷く顔色を悪くしながら肩で息をしている。油断したあたしの所為だ──── アスナから立ち上る気が、はっきりとわかるほどに揺らめいている。いつかの模擬戦で見せた圧力など、比べものにならないほどの気配。アスナを支えている床が悲鳴を上げるようにひび割れ、足下の石が耐えきれず弾け飛ぶ。

『アスナ、落ち着くんだ。ティアナは無事だ。聞いているのか』

「……ウルサイ」

 アスナは、ゆるりと顔を人型へ向ける。ゴーグル左目の単眼(モノアイ)が──── 妖しく灯り、その口元を凶悪に。耳元まで裂けるかと思うほどに嗤いの形へと変える。六課に来てからまだ一度も見せた事のない、敵意を向け
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