暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
SAO
〜絶望と悲哀の小夜曲〜
最後のチュートリアル
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が《本物の危機》なのか《オープニングイベントの過剰演出》なのかいまだに判断しかねているのだ。茅場の言葉はその全てがあまりにも恐るべきものであるがゆえに、逆に現実感を遠ざけている。

その時、全プレイヤーの思考を先回りし続ける赤ローブが、右の白手袋をひらりと動かし、一切の感情を削ぎ落とした声で告げた。

『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』

それを聞くや、ほとんど反射的にレンは右手の指二本を揃え真下に向けて振っていた。周囲のプレイヤーも同様のアクションを起こし、広場いっぱいに電子的な鈴の音のサウンドエフェクトが響く。

出現したメインメニューから、アイテム欄のタブを叩くと、表示された所持品リストの一番下にそれはあった。

アイテム名は───《手鏡》。

なんだコレ、と思いながらレンはその名前をタップし、浮き上がった小ウィンドウからオブジェクト化のボタンを選択。たちまち、きらきらという効果音とともに、小さな四角い鏡が出現した。

おそるおそる手に取ったが、何も起こらない。覗き込んだ鏡に映るのは、蓮が苦心して造り上げた、高身長、高筋肉のラガーマンだけだ。

───と。

突然、周囲のアバターを白い光が包んだ。と思った瞬間、レンも同じ光に呑み込まれ、視界がホワイトアウトした。

ほんの二、三秒で光は消え、元のままの風景が現れ…………。

いや。

何かが違う。一瞬それが分からなかったレンはもう一度注意深く周囲を見て、気付いた。

──顔ぶれがさっきと違う──

周囲に存在しているのは、ほんの数秒前までいた、いかにもファンタジーゲームのキャラクターめいた美男美女の群れではなかった。例えば現実のゲームショウの会場から、ひしめく客を掻き集めてきて鎧兜を着せればこういうものができるであろう、というリアルな若者たちの集団がそこにあった。恐ろしいことに、男女比すら大きく変化している。

嫌な予感がした。

咄嗟に持ち上げ、食い入るように覗き込んだ鏡の中から、こちらを見返していたのは。

しっとりとした黒髪。少し長めの前髪からこちらを見つめる青みがかったくりくりとした大きな眼。生まれてこのかた可愛いとしか言われたことしかない線の細い顔。

数秒前までの《レンホウ》が備えていた、マッチョな逞しさなどもうどこにもなかった。鏡に映っていたのは───

忌避してやまない、小学三年生の小日向 蓮の顔だった。

──なるほど。ナーヴギアで顔の表面をスキャンしたのか、キャリブレーションで体格も再現したのか──

冷静にそんなことを思ったのは、単に現実逃避したかったのかもしれない。

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