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フェアリーテイルの終わり方
二幕 エルの妹
1幕
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女子が別の男に花を選ぶ話をしたいものか。

「あの子もね、お花をあげたかったんだよ。パパに。だから摘みに行ったのに……」

 せっかく元気になったエルがまた沈んだ声になり始める。

「妹がパパにあげたかった花、湖のギリギリのとこに咲いてたの。あの子じゃ届かなくて、だから『お姉ちゃんが取ってあげる』って……でもエル、すべって湖に落ちちゃったの。あの子があわててパパ呼びに行って、パパのおかげでエルは何ともなかったよ。でも……」

 エルはぼんやりと俯いていく。

「パパ、あの子とふたりきりになって、あの子をぶってた。何言ってたのかよく聞こえなかったけど、『お前のせいだ』とか、『またうばう気か』とか。あの子、パパに何言われても『ごめんなさい』しか言わないの。泣いてゴメンナサイしてるのに、パパゆるしてくれなかった。すごくかわいそうだった」

 ルドガーは横に座るエルの肩を引き寄せる。エルは今度、素直にルドガーにもたれかかった。

「後から聞いても『わるいのはぜんぶわたしだから』って言うばっかりで。そんなことないって、エル、あの子をだっこして言ったんだけど、あの子はずっとそう言うの。――次の日の朝には、あの子はいなくなってた」

 眠そうに瞬きをくり返しながら、それでもエルは語る。

「あの子が部屋にいなくて…湖からあの子のリボンが上がったの…きっと今度は自分でお花を摘もうとして落ちたんだってパパ言った。その日から妹のことしゃべると、パパ怖い顔したから、エルもあの子のこと忘れてってた……ヒドイお姉ちゃんだ」
「ヒドイわけないだろ。同じ名前を聞いただけで思い出せたんだ。エルがずーっと妹を忘れなかった証拠だよ。さすがお姉ちゃんだな」

 ルドガーはエルの帽子を外し、手の平で目隠しをする。

「少し休め。トリグラフまでまだ時間はある。着いたら起こすから」
「ん…おやすみ…」

 目隠しを外すとエルはしっかり瞼を閉じていた。
 ルルが座席に登り、エルの横で丸まる。湯たんぽ頼む、との意で撫でると、ルルは一声鳴いて寝る体勢に入った。

「すっかり保護者が板についたね」
「まあ何だかんだで付き合いも長くなってきたし。連れて来たの俺だから、責任は持つつもり」

 チカン扱いされた件と、懐中時計の妙な力で拒絶された件は、多少なりとエルへの心証に影響しているが、まだ8歳の女の子が「父親との約束だから」というだけで危地に飛び込むのを放っておけるほど、ルドガーはオトナになれていなかった。そして、徐々に心を開いてくれるエルを、かわいいと思わないこともなかった。

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