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久遠の神話
第五十九話 三人の戦いその十一

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「本当にお願いします」
「その為に来ましたので」
 男の返答ははっきりしていてかつ穏やかなものだった。その口調は哲学者、温和なそれを思わせるものだった。
「私としましても」
「では私も行きますので。ただ」
「ただ、ですね」
「私は彼等にまだ話しません」
 隠す、何かをだというのだ。
「そうします」
「隠されるのですか」
「はい」
 こくりと頷いて言う。
「そうします」
「そうですね、その方がいいですね」
「真実を知っているのは私とあの方と」
「私だけですね」
「それだけに貴方が来られたことは大きいです」
「最後の一人として」
「そうです。最後の一人は」
 何なのか、聡美はこのことについても言った。
「この不毛で陰惨な長く続いた戦いを止められる方です」
「それが私です。では今から」
「今からとは」
「暫くこの国に留まります」
 日本にだというのだ。
「ですから住む場所を探しているのですが」
「ご自宅ですか」
「貴女は今は何処におられますか?」
「部屋に」
 そこにだというのだ。
「マンションを借りてそこにです」
「住んでおられるのですね」
「私はこうして人間の世界に最も必要なものは幾らでも造り出せるので」
 右手を胸の高さに出して軽くスナップさせて手の平を上にやった、するとだった。
 その手の平に大きなエメラルドと銀が出た。男にその二つを見せながら言う。
「家賃というものについても。他の生きる為に必要なお金も」
「手に入れられますね」
「どなたもギリシアにあることになっている実家の仕送りで生活していると思われています」
「それでなのですね」
「この国での生活は困っていません」
 そうだというのだ。
「私の場合は」
「では私は」
「貴方も経済的にはですね」
「困ってはいません」
 答える言葉には確かな余裕があった。
「我が家は」
「ではお部屋だけですね。見つけられるのは」
「仕事もですが」
「お仕事はお国におられる時のままでどうでしょうか」
「あれですか」
「はい、あのお仕事で」
 どうかというのだ。
「すぐに出来るとも思いますので」
「画廊はですね」
「そして骨董品の扱いも」
 それもだというのだ。
「貴方のお国の商いも」
「商いというよりかは」
「違うのですか?」
「今の言葉で言いますと」
 そうするとどうかというと。
「ビジネスです」
「それですか」
「私がしているのはそれです」
 商いではなくビジネスだというのだ。
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