XII
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かった。
だがまあ、思い至ったところで知る術はないんだがね。
何せまったくの身元不明なのだから。
当時養父母らが警察に届けて調査をしたらしいが、不明。
そうなればもう手詰まりだ。
「そうか……聞かせてくれてありがとう」
「何、これでイーブンだろ。お互い見せるべきものは見せ合ったしな」
「ああ。しかし、既知か……それは地獄のように思えるよ」
それについてはまったく同感だ。
「人間の一生は未知を既知に変えるためにあると言ってもいい。
未知多き幼年期、多くを知り、それでも総てを知ることが出来ずに死に向かう老年期。
最初から知っているのならばそれは、何と渇いた人生だろう。心に何の潤いも齎さない」
正しく把握しているようだ。
俺も美鶴の言葉には概ね同意出来る。
酷く渇いた人生、全く以ってその通りだ。
世界から色が消え、一人モノクロの砂漠に放り出されたような錯覚さえ覚える。
「とは言え、そんな地獄を超えるために悪徳を成すと言うのは――私の美観には合わないがな」
「美観、か。素敵な言い回しじゃないか」
世にはびこる常識道徳倫理、そんな言葉で否定するのではなく、美観。
そんな言い回しをされたら、何も言えないではないか。
「だろう? 君の好みそうな言葉を選んだんだ」
「ハハ! 何だよオイ、ますます好きになりそうだぜ」
S.E.E.S.へ加入してからコイツが変わるまで、俺は彼女をどうとも思っていなかった。
考え方なんて千差万別十人十色、否定も肯定もする気はない。
だから美鶴の――ある種の潔癖さについても何も思いはしなかった。
…………まあ、さっきみたいな取り乱してた時ならちょっと分からないが。
「そうか、それは光栄だよ。で、だ。光栄ついでに一ついいかな?」
「何だ?」
「君は桐条から美鶴と呼び方を変えた。私も君の名を呼んでいいだろうか?」
「…………まあ、下の名前くらいは知ってるよな」
「ああ。そしてどう言うわけだか君が自分の名前を好いていないこともな。悪くない名前だと思うが……何故だ?」
確かに字面だけ見るならばありきたりな名前だ。
名を持たぬ俺に両親が一字ずつくれた名前で……表面上は問題ない。
「フルネームを並べて、んで幾つか漢字を変えてみれば分かる」
「ん?」
「親父が信彦、お袋が霧絵。そして俺はそこから一字ずつ貰って――――霧信、裏瀬霧信が俺のフルネームだ」
「? 幾つか漢字を――――ああ、そう言うわけか。確かに、字面がよくないな」
「だろ?」
裏瀬の瀬を背に、霧信の霧を切に、そしてそのまま並べてみる。
裏背切信――――裏切り、背信、何ともアレな名前だと思う。
「それに気付いた時から、どうも……なぁ?」
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