第二十話 〜休日と嫌な予感 前編【暁 Ver】
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してんの?」
「エリオとキャロの樣子をちょっと」
スバルの端末スクリーンには二人の現在位置が表示されていた。
「はいはい、折角のデートなんだから野暮な事しないの。二人とも確りしてるし、心配いらないわ。何かあったら連絡するでしょうしね。ほら、行くわよ」
──── ごとり。
見窄らしい布切一枚だけを体に纏った少女は、よろめきながらも日も差さぬ地下排水路を歩いていた。左腕に乱暴に巻かれた鎖の先には金属製のケースが二つ。小さな体でケースを引きずりながら歩くその姿は──── まるで足枷をつけられた奴隷のようだった。躓き転んだ拍子にケースの一つが排水溝に落ちるが、少女は一顧だにせず再び歩き出す。何かから逃げ出す罪人のように──── 救いを求める信者のように。
藤色した艶のある髪を黒いリボンで束ねた少女は──── それを鋭い瞳で見つめていた。整った顔立ちと均整の取れた肢体を制服に包んだ姿は、年齢よりも幾分大人びた印象を抱かせる。陸士108部隊に所属している彼女が不審な事故の通報を受け、現場に駆けつけたところ目に飛び込んできた光景に一瞬だけ思考に空白が生まれる事態になる。床に散乱するガラス片と──── 培養液。そして、培養液を制御、管理するためのコントロールユニット。
──── 生体ポッド
傍らには機能停止したガジェットの残骸も転がっている。どう考えても、緊急事態だ。彼女はひたひたと迫ってくる虫の知らせにも似た嫌な予感を、振り払うかのように……通信機のスクリーンを立ち上げた。
エリオがその音を聞き取ったのは全くの偶然ではあったが、彼女にとっては僥倖だったのかも知れない。エリオとキャロがシャーリーから半ば強引に押しつけられたデートプランを、なんの疑問もなく熟しながら予定通りデパートへ向かっていた頃。エリオの常人よりも優れた聴覚が何かを捉えた。突然立ち止まったエリオにキャロは不思議そうな顔をする。
「どうしたの、エリオ君」
「何か……聞こえなかった? 呻き声みたいな……あと、ごんっとか、ごりって感じの音が」
年相応な酷く曖昧な物言いではあったが、それを聞いたキャロは酷く真面目な表情をするとエリオの額に小さな右手を持っていく。
「……キャロ? 熱はないよ。確かに聞こえたんだ。こっちかな」
最近どことなく、アスナに似てきたキャロに幾ばくかの不安を覚えつつも路地裏へと入っていく。路地裏へ入ってすぐ。二人が目にしたのは相当な重さである筈のマンホールの蓋が軽々と持ち上げられ……そこから這い出すように姿を見せた一人の小さな少女だった。
慌てて近づいていくが、少女はそこで力尽きたのかぴくりとも動かない
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