六十三 濃霧に沈む
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気配がない。
訝しげに眉を顰めるアスマと紅。二人の警戒心が高まる一方、その場一面を覆っていた霧が徐々に晴れてゆく。
霧の動きに呼応するかのように、陽炎の如くゆらゆら揺れる再不斬と白の姿。まるで濃霧に沈み込んでゆく二つの人影に、アスマと紅は思わず手を伸ばす。
突如、霧が一斉にざあっとひいた。
顔面に霧の粒子がかかり、思わず目を瞑る。次に二人が眼を開けた時には、其処には誰もいなかった。
クリアとなった視界の中、唖然と立ち尽くす。暫し呆けたように突っ立っていたアスマは、我に返るとすぐさま周囲に視線を巡らせた。
しかしその場はまるで最初から霧さえも発生していなかったかのように静まりかえっている。罪人は姿無き霧の彼方へ消えてしまった。
慌ただしく駆け出す。追跡しようとした矢先、アスマと紅の前に数人の忍びが立ちはだかった。
「遅いぞ!速く追い駆け…」
急かすアスマに反して、木ノ葉の忍びであるはずの彼らは微動だにしない。むしろ二人を邪魔するかのように立ち塞がっている。
「おい!聞いてるのか!?」
アスマの怒鳴り声を気にも留めず、忍びの一人が一歩前に出た。無表情に告げる。
「此処から先は我ら『根』が預かる。お二方にはお引き取り願おう」
「はあ?何言ってるの!指名手配中の抜け忍がさっきまで此処にいたのよ!?今ならまだ間に合…」
「お引き取り願おう」
取りつく島も無い。
にべもなく追い遣られたアスマと紅は瞠目する。目の前の男達は何を言っているのか。
つい先ほどまで『霧隠れの怪人』こと干柿鬼鮫と『霧隠れの鬼人』桃地再不斬、それにあの、うちはイタチがいたというのに。なぜそんな悠長にしていられるのか。
「追う事は罷り成らぬ。また、此処で起きた事は一切他言するな―――これはダンゾウ様のご意思だ」
茫然自失するアスマと紅に冷たく言い捨て、『根』の忍び達は立ち去った。『根』に所属する色白の少年だけがちらりと二人に視線を寄越したが、すぐに踵を返す。
そうしてその場には誰もいなくなった。しん、と沈黙した空間で、動くのは二人の足下を濡らす静穏なさざ波のみ。
ややあって、アスマの顔がみるみるうちに歪んでゆく。
「くそ…ッ、なんだってんだ!!」
靄で翳んだかのように考えの纏まらない脳内。だが其処は、やり場のない怒りで満ち溢れている。
遣る瀬無い思いに我慢ならず、彼は咥えていた煙草を吐き捨てた。煙草は弧を描いて水面へ落下する。水没直前に一度だけ浮かび上がった赤い火口が、最期の灯火とばかりにぽっと光った。
それきり沈みゆく。
後には静寂だけが残された。
橋の上。ナルトと二人きりになったサスケは居心地悪
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