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渦巻く滄海 紅き空 【上】
六十二 和解
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けばよかったと…。お前なら父を母を…うちはを変える事が出来たかもしれない…」
サスケは驚いて目を見張った。あの完全無欠の兄が弱音を吐くなど信じられなかった。こんな自虐的な態度をとるなどとは思わなかった。

全てを手にし、何でも成せる。己にとって理想的な、完璧な存在。サスケにとってイタチはいつだって英雄だったのだ。
だからこそ目を疑う。今目の前にいるのは、本当にあの、強くて優しくて頼りになる、サスケの自慢の兄なのかと。


「俺はいつもお前を子ども扱いしていた。守るべき対象としか見ていなかった。お前を…信用していなかった」
そこでイタチは口を噤んだ。静かに瞳を閉ざしているナルトに視線を向ける。
サスケは忍びなのだとイタチに気づかせた張本人。彼を一端視界に捉えてから、イタチは改めてサスケを見た。

「俺は何事も全部己の手で成そうとした。全てを手に入れたつもりで、自分の思い通りに信念を貫こうとした。だがそれは結局、ただの盲信だ。何でも成せると完璧を装っていただけだったんだ…」
「……あんたはいつも完璧だったじゃないか!」
サスケが思わず漏らした一言に、イタチは軽く頭を振った。俯き様に呟く。


「俺を完璧だったなんて言ってくれるな」
その声音は酷く切なく、そして哀しげな響きがあった。


「力を手にした者は己の力を慢心し、自惚れる。孤立し、傲慢になる。それと同時に、決して失敗を認めようとしない。誤ちを犯しても自分に嘘をつき、誤魔化して…。そうするうちに他人を信用しなくなっていく…」
淡々と並べる口調はどこか他人事のようでいて。それでいて己を責めているかのような風情のイタチをサスケは戸惑いながらも見上げた。
「俺は俺自身に嘘をつき、皆に嘘をつき、お前に嘘をつき続けた。そしてこれからも嘘をつき続ける。………だが今俺は、お前に会った。会ってしまった」
そこで言葉を切る。一時の沈黙の後、イタチは顔を上げた。逡巡の色を浮かべた瞳がゆらゆらと揺れている。唇を歪め、彼は口許に自嘲的な笑みを浮かべた。

「やはり俺は……罪人として死ぬべきだった。裏切り者としてお前に殺されるべきだった」
「違う!!」


叫ぶ。
その言葉を真っ先に否定し、サスケはキッと兄を睨み据えた。
「俺はそんなもの望んでいない!俺はあんたが……兄さんが、」
言葉が詰まる。続けようとするが、次に話す言葉が見つからない。上手く言えずにいるサスケに対し、イタチは久方ぶりに聞いた「兄さん」という呼称に驚いていた。

イタチは嘘をつき通す事で、己の信念を貫くつもりだった。偽りの自分を演じ続ける事が木ノ葉の平和に繋がると考えていた。どんなに汚名を着せられようと、どれほどの罪を課せられようと。忍びとは耐え忍ぶものであり、陰から平和を支える自己犠牲こそが美徳
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