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東方虚空伝
第二章   [ 神 鳴 ]
二十五話 神々の戦 古王と新王
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―――――筈だった。
 巨木の影より疾駆する黒い奔流が、まるで魚群に飛び掛かる海鳥の群れの様に鋼の刃に躍りかかったのだ。
 黒い奔流の正体は漆黒の身を持つ数十匹の群狼(ぐんろう)――――体長一m程の狼の群れが真紅の瞳をギラつかせながら、鋼達に牙を突き立てる。
 噛み砕かれる刃、射抜かれる黒狼、互いに地に転がるモノ……そんな燦然たる状況に目を向けていた須佐之男の頭上から絶死の一撃を放たんとする影が躍り出た。

「あんたの相手は…………こっちよッ!」

 そう叫ぶルーミアは黒の大剣を振りかぶり、須佐之男の脳天目掛け振り下ろしす――――が、漆黒の闇を炎の様に纏った大剣を須佐之男は勢い良く後方に飛ぶ事で回避する。
 目標を失った一撃は激しく地を叩き、凄まじい破壊力で衝撃と爆煙を撒き散らした――――それは最早剣戟などでは無く、鉄槌に近い。

 立ち上った爆煙は一瞬にして周囲へと広がり須佐之男の視界を奪う――――そして彼は自身の側面の煙が僅かに揺らいだ事を見逃さず迎撃の体制を取る。
 煙幕からあの女(ルーミア)が飛び出してきた瞬間に斬り伏せる――――そう思考し刃を構えた須佐之男は煙幕を破って現れたモノを視認し瞠目した。
 それはルーミアでは無く体長三mを超える黒い体毛に覆われた――――巨熊(きょゆう)
 想定していた相手と違う――――その戸惑いが一瞬だが須佐之男に隙を生んでしまい、突進してくる巨熊の一撃に対処出来なかった。

「ガっ!!」

 体当たりの要領で須佐之男を捉えた巨熊は、そのままの勢いで須佐之男ごと明後日の方へと爆走して行き、その後を追う形でルーミアが飛翔する。

「おのれ!穢れの分際でッ!!」

 煙幕の切れ間から須佐之男の状況を目にした天照が、須佐之男を追撃する為に背を向けているルーミアに攻撃を仕掛ける為に自身の周囲に五十p程の火球を六つ創り出し狙いを付けた。

 それに気付いた虚空が神奈子を振り払い天照に光弾を撃とうとする――――
 そうはさせまい、と神奈子は虚空に向け棍を突き込もうとする――――
 天照は火球を矢の様な形に変え、背を向けているルーミアを射抜こうとする――――

 そんな三者三様の行動は――――突如響き渡った凄まじい衝撃音によって停止した。
 三人の視線は衝撃音が響いてきた方向に向けられ、彼等の目に飛び込んで来たのは――――天を覆うような巨木の枝葉から僅かに望む空を舞う()()だった。
 まるで何かに吹き飛ばされているかの様に、衝撃音と共に次々に巨木が宙に打ち上げられていく。
 そして衝撃音の発生源(・・・)が木々を薙ぎ倒し、虚空達の前へと現れる――――それは巨大な、途轍もなく巨大な…………猪。

 全長は恐らく三十mを優に超えており一歩踏み込む(ごと)
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