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空を駆ける姫御子
閑話3 〜追憶の日々 -again【暁 Ver】
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練した結果……私は強くなった、と思う。だけど、兄はあまり喜んでくれない。私はそれが少しだけ──── 悲しかった。

 さて、どうやって寮へ戻ろうかと空を駆けながら考えていたところに、中庭の隅で一人の女性徒が食事をしているのが見えた。女子寮の各部屋には簡易的なキッチンがついている。食堂で食事をする生徒が大半だが、お弁当を作って食べる生徒もいるので、珍しい光景じゃない。私の目を惹いたのは女性徒の肌の色だ。ミッドでは珍しい(私が知らないだけかも知れないが)豊かな大地を思わせるような──── 褐色の肌。あんな生徒がいたか記憶をサルベージしてみるが、何も引き揚げられなかった。

 私は上空から着地点を確認すると、魔力素固定化能力(Fixed Mana)を解除する。重力が自分の仕事を思い出し、私をぐいと引き寄せた。遊園地にある絶叫マシンと呼ばれる名ばかりのおもちゃとは、比べものにならない浮遊感。下から上へ高速で流れていく景色と風を感じながら、彼女の前へと降り立った。

 彼女は目をぱちくりとさせながら、突然空から落ちてきた私を見ていた。銀になり損ねたような色をしたショートヘアが驚きで揺れている。無言で近づいていくと彼女の口から思いがけない単語が飛びだした。

「え、えぇと……サンタさんですか?」

 たっぷりと五秒は思考が停止した。サンタ? あのサンタだろうか。何を言っているんだろう。サンタと言えば赤い服が定番だけど、私の服装はボトムスがグレーカーキのカーゴパンツ。トップスは臙脂色のフライトジャケットだ。赤なんて何処にもない。

「だって、袋も背負ってますよ?」

 そりゃぁ、頭陀袋を肩に引っかけてはいるが、生憎と中に入っているのは子供達へと配るおもちゃではなく、コンビニからの戦利品だ。そもそも……彼女は()を知らないのだろうか。

「……なにをしている?」

 彼女の質問は無視することにした。

「お弁当してました。編入したばかりでボク、お友達がまだいなくて」

 『ボクっ娘』なんて初めて見た。都市伝説じゃなかったのか。また兄に騙された。今度帰ったらお説教だ。

「ははは。可笑しいですよね、女の子なのにボクなんて。兄や弟がたくさんいて、いつの間にか『ボク』になっちゃいました」

「……べつに」

 人と違うということは、決して可笑しいことじゃない。そんな事よりも、先ほどから彼女のお弁当箱に鎮座しているおかずが気になった。

「あ、一口食べますか? ちょっと自信作です。ボクのフォークで申し訳ないですけど」

 彼女はそう言うとフォークを使って器用に()()を半分にし、私の口の前へ差し出した。少々気恥ずかしかったが、遠慮なく頂くことにする。……美味しい。そして思った通りだ。これって


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