第39話 「帝国のグランドデザイン」
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できない。やっぱり侵攻しますとは言えないんだ」
「うん?」
「そんな事を言えば、改革もやっぱりやめます、と言い出すだろうと思われるからな。あれは自らの手足を縛りつけたようなものだ。だから公表する」
「皇太子の動きを牽制するのか?」
「そうだ。そのとおり。牽制する」
■総旗艦ヴィルヘルミナ リッテンハイム候■
「宜しかったのですか?」
「何がだ?」
「侵攻の意志はないと明言されたことです」
「構わん。侵攻の意志はない。だが攻めてくれば、これを迎え撃つ」
「攻めてきますか?」
「来るさ。そして今頃、俺の言葉を公表しようとしているだろうな。公表した上で攻めてこさせる。自ら滅びたいと言わせてやろう」
皇太子殿下が軽く笑う。
あいかわらず怖いお方だ。
同盟が気の毒に思えてきた。
「失礼致します」
ケスラー中佐とメックリンガー少将が揃って部屋に入ってきた。
二人とも高揚がまだ冷めていないようだ。
「よっ、二人ともよくやった。ご苦労だったな」
「はっ。光栄であります!」
皇太子殿下の言葉に恐縮している。
とはいえ、ケスラーはスパイのチェックをしていたし、メックリンガーは指揮者という大役を果たした。二人ともよくやったと言うべきだろう。
「メックリンガー少将。卿は芸術関係に強いそうだが、わたしはその方面には疎くてな。今後も卿の見識に頼る事になると思うが、よろしく頼むぞ」
「光栄であります」
見事な敬礼だ。
畏敬の念が伝わってくる。
「ケスラー中佐。帰還兵の様子はどうだ?」
「はっ。見違えたように規律正しくなっております」
「そうか」
「帝国軍人として、恥ずかしくないようにせねばと、思っているようです」
「それは結構な事だ。ミュッケンベルガーはどう思っているのだろうな」
「元帥は苦笑を漏らしておりました」
「まあ元帥らしい。帰還兵は帝国軍人である。それにふさわしい扱いをする様に」
「はっ!!」
二人が部屋から出て行ったあと、皇太子殿下がぽつりと漏らす。
「帰還兵が帝国軍人として恥ずかしくないようにか、期待して良さそうだな」
「その通りですな」
皇太子殿下の遣り様がうまくいったみたいですが、殿下は考え込んでおられています。
いったい何を考えておられるのか?
帝国全土を考えねばならない立場というものは、中々難しいようで……。
皇太子でなく良かったと思う事もしばしばだ。
この様なときはつくづくそう思う。
それでも皇太子殿下には考えてもらわねばならない。
むずかしいですが……。
期待していますぞ、殿下。
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