第一章 平凡な日常
35、霧と大空、ご対面
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けようとしなくて、ホントやばかった。ダメかもしれないと思ったんだけど、ギリギリ間に合って助けることができた。そんときになつかれちまって預かることになって、そんであいつ、今日帰るんだ」
やっぱりこの人はお人好しだ。
お人好しほど早く死ぬ、なんて言葉があるけど、彼女がそれを体現している気がしていた。
他人のためなら自分の危険は省みない。
それが要と言う人間であることは充分承知している。
だからこそ、恐い。
人を助けるばかりで、決して自分は助けを求めない。
だから危険を冒す。
「要!」
「ん?」
「辛かったら相談して、私たちを頼って。一人で何でも抱え込まないで」
「……凪?」
「私は……苦しんでる要を見たくないから」
その言葉に、要は言うことを失ってしまった。
昔から、自分のことは自分で解決しなくちゃいけないと思っていた。
誰かに頼っちゃいけないと思っていた。
頼ったら、その“誰か”に不幸が訪れてしまうから。
両親も彩加も……。
だから一人で抱え込まなくちゃいけないと思っていた。
けれど凪は、“抱え込まないで”と言った。
“頼って”と。
「別に辛くないし、抱え込んでもねぇよ」
だから嘘をついた。
また抱え込んだ。
それが凪にバレているだろうとわかっていながら。
†‡†‡†‡†‡†‡
夕日が照らす並盛町を、要はコスモの手を引いて歩いていた。
家の前には黒い車が数台止まっていて、家の明かりがついている。
戸締まり忘れてた、と後悔しながら、玄関を開けた。
「悪いな、勝手に上がらせてもらった」
案の定、そこにいたのはγだった。
遊園地でも言った通り、今日はコスモが帰る日なのだ。
「それじゃ坊っちゃん、帰るぞ」
「うん」
コスモが寂しそうに頷く。
そしてγに手を引かれて、外に止めてあった車に乗り込んだ。
後に続くように、要も家から出る。
車の中から、コスモが見上げていた。
「コスモ」
精一杯の笑顔を作る。
コスモが寂しがらないように。
いや、本当は自分に向けて作った笑顔だったかもしれない。
「今度はオレがイタリアに行ってやるからな」
「うん!」
それを皮切りに、車が発進する。
コスモの顔が、だんだんと遠退いていく。
次第に黒い塊となり、ただの影となり、地平線へと消えていった。
すでに、要の顔からは笑顔が消えていた。
「絶対に行くからな」
その頬を流れ伝う滴が、夕陽の赤い光を反射して輝いた。
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