アインクラッド 後編
穹色の風
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…!」
十秒ほどの時が過ぎて、ようやく我に帰ったジュンは、無意識に泣き腫らした瞳でマサキを睨んだ。悲しみ、やるせなさ、疑念、そして怒り。全ての感情が凝縮された視線が、突っ立った、ただ倒れていないだけのマサキを捉える。
虚ろな瞳で部屋を、ジュンを見る。勝利の余韻に酔いしれていた群集が、気付いたように静まり返って視線をこちらに集中させる。
その中心で、マサキはもう一度歪に笑った。
「何で? ……ハッ、簡単なことだ。……俺が、人殺しだからだよ」
「え……?」
“人殺し”――。このSAOで最も忌避されているとも言えるその単語をマサキが紡いだ瞬間、波に打たれたように聴衆がざわめいた。目を見開いたジュンが、信じられないという風にかぶりを振る。
「そんな……ウソだ……!」
「嘘じゃない。現に、お前たちが俺を呼んでいる「穹色の風」。それは、俺がPKしたときについた名前だ」
「そんな……そんなはず……! だって、だったら、俺たちはそんな人殺しを……!」
「ああ、そうだよ。お前たちが憧れ、目標にしていた人物は、血に塗れた、薄汚い人殺しだ」
「…………!」
その瞬間、ジュンの中で何かが弾けた。膝の横の太刀を取り、雄叫びを張り上げながらマサキに斬りかかる。近くにいた数人のプレイヤーが咄嗟にジュンを床に押さえつける。ジュンはマサキを血走った目で睨みつけながら暴れるが、スピード型のジュンに数人がかりの羽交い絞めを抜け出すことなど、到底できるはずもなかった。
「放せ……放せよ! 畜生、畜生……ッ!!」
泣き喚き、もがきながら叫ぶジュンをマサキは冷ややかに見下すと。
「――転移、ウィダーヘーレン」
システムが感知できるギリギリの声量で、その場を去った。
『殺す……いつか、絶対に殺す……!』
視界が漂白される寸前にジュンが放ったその言葉が、マサキの脳内で延々と繰り返されていた。
ウィダーヘーレンに隣接した、小さな針葉樹林。その外れに位置する小高い丘に、マサキは突っ立っていた。丘の中心部には一際高いカラマツがそびえ、その根元に小さな白い花が墓標のように植えられている。何度も何度も木枯らしに吹き付けられたその花は既にしおれきっていて、今にも消えてしまいそうだった。
「……マサキ君……」
不意に、背後から声がした。首から上だけで振り向くと、心配そうな表情を浮かべたエミの姿が。
「……追けてきたのか」
「それは……ごめんなさい……」
窘めるようなマサキの視線と言葉に、エミは思わず謝ってしまう。
沈黙。
「……ねえ、マサキ君。一度、皆のところに戻ろう? 今なら皆も分かってくれるし、わたしも一緒に謝って――」
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