第2部:学祭1日目
第6話『思慕』
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上げた。
「さわちゃんとかいったな。アタックするのも悪くねえかもなあ。『澤さわカップル』ってのも、ヘテロカップル1号としてはいいと思わねえかあ?」
「はいはい……。ま、先生と生徒のカップルってのもありか」
まあそれも面白いかな。誠は一瞬思った。
「ひょっとしたら、1号はお前と俺との一騎打ちになるかな、なーんちゃって」
「何で俺とお前だけになるんだ! それに前にも言ったろ、俺と平沢さんは、そういう関係じゃない!」
ついムキになってしまう。
「そうかなあ。平沢さんについて話した時、誠、すげえうれしそうな顔をしてたんだけどな」
泰介の言葉に、はっとした。
無理に抑えていた唯のイメージが、一気に、グイと脳の全体を占めた。
そばにいて、笑ってくれるだけでいい。
泰介にはそう言ったけど、本当はもっともっと、そばにいてほしいんだ。
あの屈託ない笑顔を、ずっと続けてほしい。
もっと話がしたい。もっとお互いのことが知りたい。
「ま、お前には西園寺がいるもんな」
「あ……。そ、そうだよ」
高鳴る胸を抑えつつ、生地を皿の上に移した。
「誠、お前はどうしたいんだ?」
「それは……」
「ま、今すぐ答えられねえよな」
図星であった。
誠はだまって、新しく生地を焼き始めた。
「ゆっくり決めなよ。誰を選ぼうとお前の彼女なんだから」
肩をすくめて泰介も、隣でクレープの生地を作る。
そろそろ交代の時間。
やっと交代になった。
もちろん、時すでに遅し。
放課後ティータイムの姿は、どこにもなかった。
一緒に下校した時、ベラ・ノッテに行った時。
その時の唯の笑顔が、頭にほんわりと浮かんだ。
もっと、自分の気持ちに正直になったほうがいいのかな……。
でも、世界や言葉には何と言ったらいいか。
ふと、黒板の下にギターケースがあることに気づく。もちろん唯のである。
おいおい忘れんなって。他の皆も誰か気にかけろって。
お客もクラスメイトも全然目にくれず、めいめい好き勝手なことをやっている。
ギターケースを取ると、ぬくもりがまだ残っていた。
ファスナーのあたりに、白い字で小さく、
『ひらさわ☆ゆい』
とあるのに気付く。
それも『ひらさわ☆』と左上から右下に一筆書きで書かれ、『さ』をはさむ形で『ゆ』と『い』が左下から右上に、交差するような形でデザインされている。
たぶんサイン風に書いたつもりなんだろうが、あまりにおかしい。
でも、微笑ましかった。
きっと彼女、わくわくした表情で書いていたのだろう。
「やはりね」
はっとなって振り向くと、背後に泰介がいる。
「やはりって、なんだよ」
「鏡見てみな。平沢さんのことについて考える時、お前、すっごく嬉しそうな顔を
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