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『銀河英雄伝説』――骨董品(ガラクタ)――
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戦術的に追い詰められた上で仕掛けられたヤンの心理的陥穽。
 コジク副官が一石三鳥と賞賛した作戦は、実は会戦三日前にヤンが自分の幕僚たちにブリーフィングルームで聞かせた秘策そのものだった。

「よ、要塞主砲の発射、確認。き、き、来ます!」

「閣下、申し訳ありません。全ては敵の策略を見抜けなかったこの老いぼれの責任です。」
 深々と頭を下げる副官にソクディンが最後の別れを告げる。
「よい。その代わり、卿にはヴァルハラまでの道中でも補佐を頼む。いいな?」
「御意! 閣下の行く手を邪魔する亡霊どもなど、このコジクが全て討ち払って見せますぞ」
 スクリーンの端で要塞主砲の発射予想時間が無意味なカウントダウンを続けている。ゼロ表示されるまでまだ十二分に余裕のあるタイムリミット。
 それをあざ笑うかのように、今度は空砲ではない本物の雷神の鎚がソクディン艦隊を飲み込んだ。
 全ての艦艇が一瞬で変形し、つぶされ、瓦解し、燃え尽きながら蒸発していった。
――★――
「やったー!」
 ヤン艦隊の将兵たちが、あちこちでグリーンベレー帽を宙に放り投げて歓喜を爆発させる。
 旗艦ヒューベリオンの艦橋でもヤンの幕僚たちがお互いに肩を叩き合って喜びを抑えきれない。
「ふぅー。絶対にここまでは届かないと判っていても、トゥールハンマーの前に立つのはやっぱり冷や汗物だね」
 ヤンが帽子でパタパタと顔を扇ぎながら、胡坐をかいていた司令官シートから降りると、その隣に立つシェーンコップ少将が話しかけてくる。
「三日前、ブリーフィングルームで貴方の秘策を聞いた時は、正直開いた口が塞がりませんでしたが、実際にこうなってみると何も言うことはありませんな」
「そうかい? 私は単に消去法で作戦を立てたに過ぎない」
「相手より戦術的に優位に立ち、相手の選択肢を限りなく減らし、最終的には相手に最善と思わせる手を選ばせてからひっくり返す……ですかな?」
「まあね」
「常人のなせる技ではありませんな」
「おいおい、私は普通の人間だよ」
「いやいや。やはり貴方には魔術師の肩書きがお似合いですよ」
 小さく首を振ってそれには答えず、ヤン提督が背を向ける。
「少し疲れた。あとは頼むよ。グリーンヒル大尉」
「はい閣下、お疲れ様でした」
 ニッコリと微笑む彼女の笑顔を見て、照れくさそうにガシガシと頭をかく。両手をズボンのポケットに突っ込み、背を丸めながら歩き出す。
ヤンが扉の前に立ち自動ドアがスッと開いた時、また艦橋内で歓声が上がる。
「すげえ!」
 振り返ると、スクリーンには先ほど敵艦隊を消滅させたイゼルローン要塞の主砲のリプレイが映し出されていた。
 決定的瞬間を見損ねた幕僚達や下士官が興奮したように
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