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『銀河英雄伝説』――骨董品(ガラクタ)――
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略だと?」
「分からん。俺の思い過ごしならどんなに楽か。とにかく全艦をこの宇宙域から一刻も早く離脱させるのだ。どの方角でもいい、急げ!」
 その時、慌てふためく二人に航法士から悪夢のような情報が伝えられた。
「ま、まさか! そ、そんな!」
「どうした? さっさと報告せぬか!」
 コジク副官が口ごもる部下に怒声を張り上げる。
「い、い、イゼルローン要塞の表面に異変確認。こ、こ、こちらに向かって浮遊砲台が浮上しました」
 銀色の大海と見紛うばかりの流体金属の波間から、そこかしこに直径十メートルの円盤状のエネルギーコンバータが浮かび上がってくる。まるで風車の羽のように配置されたそれらが、渦巻きを描くように中央の浮遊砲台を取り囲む。
「何を馬鹿な。提督のお言葉を忘れたのか? 要塞主砲の浮遊砲台は移動に時間がかかるのだ。我が艦隊が何のためにワザワザ後退したと思っている!」
「て、敵要塞主砲の射撃軸線を外すためであります!」
「ならばもう一度確認しろ! 我が艦隊がこの位置に布陣してから何分経った? こんな短時間であのデカ物の浮遊砲台を右から左へ動かせるものか!」
「し、しかし副官。あのとおり……」
 コジクに胸倉を捕まれて眼を白黒させる下士官が、恐る恐るフロントスクリーンに映し出される要塞の映像を指差す。
 要塞を中心とした円グラフ。角度二十度に切り取られていた細長く扇形の範囲が、この瞬間パッと右へ移動した。赤で表示された死地のエリアの中央には、帝国軍の艦隊を表す立体画像が浮かんでいた。
 耳障りな警告音が艦橋に鳴り響く。

「駄目です、逃げ切れません。完全にロックオンされました!」

「要塞主砲の初弾発射後、奴等が前もって浮遊砲台を「右」へと移動させていたとしたら……」
「か、閣下!」
「先刻、要塞主砲の射程圏外に布陣した敵艦隊が、これ見よがしに我が方の左舷へ集中砲火を浴びせてきたのも、今となっては偶然とも思えぬ」
「まさか奴等はワザと隙を見せ、我が艦隊をこの宇宙域まで誘導したとでも?」

「て、敵要塞に、高エネルギー反応!」

 要塞表面に再びエネルギーの本流が奔る。風車の白い羽がゆっくりと回るように中央の巨大な浮遊砲台へと集約されていく。
「半分のエネルギー充填ならば、半分の時間で済む。真の狙いはコレだったのか! おのれ、ヤン・ウェンリー。使えない筈の骨董品がらくたをまんまと売りつけおった!」
 歯軋りをしながらソクディンが拳を握り締めた。
 先刻、有効射程の外に居た帝国軍艦隊に向けて放たれた、最初のトゥールハンマー。
 あの攻撃がヤン艦隊の背面展開を手助けだけの目くらましだと思い込んだ時点で、ソクディンは敗北していたのだ。
 イゼルローンで育った彼が、
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