『銀河英雄伝説』――骨董品(ガラクタ)――
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映し出される。
「もしヤン艦隊が追撃してくれば、トゥールハンマーは使えないガラクタのままだ。味方の艦隊を巻き添えにしてまで、我らを殲滅しようとするはずは無いからな」
「まさに一石二鳥、いや三鳥と言ったところですな」
感服したように副官が白い髭を撫でる。
「全艦右後方四十五度へ急速後退! 要塞主砲の準備が整うまで、時間との闘いだ。急げ!」
――★――
自由惑星同盟ヤン艦隊の旗艦ヒューベリオン。
司令官シートの机の上で行儀悪く胡坐をかくヤン・ウェンリーが、グリーンヒル副官の差し出す紅茶を美味しそうに飲み干した。
「さて、ここまでは上出来だ」
「舞台は大詰めと言ったところですかな、ヤン提督?」
白兵戦の出番が無いシェーンコップ少将が、ニヒルな口元に笑みを浮かべる。
「まあね。あとは仕上げだ。最後はキャゼルヌ先輩に花を持たせよう」
「要塞事務監には何とご連絡を?」
一見すると頼りなそうな上官に絶大な信頼を寄せるグリーンヒル副官が尋ねる。
「そうだね。『右』で、いいんじゃないかな?」
「はい」
女性副官が要塞の留守を預かるキャゼルヌに一言だけの指示を伝えたのを確認した後、ヤンは最終段階を告げる命令を下す。
「フィッシャー少将に伝達、敵の左翼に集中砲火をかける。全艦隊右方向へ」
瞬時に命令が反映され、名人芸と謳われた艦隊運動が艦橋のスクリーンに表示される。3D立体映像で投影された両艦隊に動きが加わる。
半月陣形で包囲するヤン艦隊に対し突撃陣形のソクディン艦隊。
青いグラフィックで表されている帝国艦隊が急速に斜め右後方四十五度の方角へ後退を開始した。
「よし! 追撃は無用だ。こちらは要塞主砲の射程圏外をこのまま左へ旋回する。間違ってもトゥールハンマーの射程に入らないこと」
――★――
「敵艦隊、追撃してきません! 要塞主砲の射程圏外を移動しています」
下士官の報告にコジク副官が鼻を鳴らして吐き棄てる。
「ちっ、反乱軍め。我々の頭を押さえるつもりか。時間が無いぞ、艦隊の再編を急げ!」
ヤン艦隊を前方に見据えながら、トゥールハンマーの射撃軸線を外すために全速で後退を続けるソクディン艦隊は、いつしかイゼルローン要塞に背を向けていた。
要塞主砲の射程外に布陣する自由惑星同盟のヤン艦隊。
要塞とヤン艦隊の中間地点に陣取る銀河帝国軍のソクディン艦隊。
両者の位置関係は、この会戦が始まる前とまったく左右逆になっていた。
――★――
自由惑星同盟ヤン艦隊の旗艦ヒューベリオンの第一艦橋に配置されて間もない若手仕官が、目を見開いてスクリーン見上げる。
「せ、先輩! い、入れ替わりました! 艦隊の位置が、ホラ!」
新入りの震える指先
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