『銀河英雄伝説』――骨董品(ガラクタ)――
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ないか。背面展開などに臆することなく反撃しろ!」
「はっ!」
スクリーンに再表示された両艦隊の位置は、先ほどとはまったく左右が逆になっていた。イゼルローン要塞主砲の有効射程圏のすぐ外で、激しいビームの嵐が飛び交う艦隊戦が再開される。
「閣下。申し訳ありません。先ほどは年甲斐も無く慌ててしまいました」
「なあに構わん。それよりもこれからだ」
「はい。閣下の迅速な判断で、敵に後背を突かれずに済みました。ただし……」
「何だ、言ってみろ」
「はっ。レーダーが回復したばかりで将兵たちがどうも浮き足立っております」
一兵卒からの叩き上げで現在の地位を得た老副官は、部下の士気を図ることに長けていた。
まるで父親のように歳の離れた老人をソクディンがじっと見つめて呟いた。
「……卿にはいつも助けられるな」
感極まって無言で白髪頭を下げるコジク副官に、艦隊司令官が新たな命令を下す。
「全艦を後退させる。いったん距離を取って艦隊の再編だ」
「しかし、閣下! 後ろからトゥールハンマーが狙っておりますぞ」
「案ずるな。あの大砲は連射が効かぬ。エネルギー充填にある程度時間がかかるからな。加えて要塞主砲の攻撃角度は、二十度刻みでしか設定できないのだ。よって射撃軸線を越えて目標設定を変更した場合、惑星表面上の流体金属に浮かぶ砲台を目標に向かって移動させねばならない」
「なるほど! 二十度の角度エリアを通り越した宇宙域まで艦隊を移動させる訳ですな。敵が目標変更に要するタイムロスを考慮すれば、移動した先で陣形を立て直す時間は十分あるはず」
フロントスクリーンにイゼルローン要塞を示す円グラフが映し出される。二十度の角度の細長い扇形のエリアが赤く切り取られて表示されている。その短い円周ギリギリのラインで双方の艦隊を示す3D画像が、砲撃戦により刻一刻と変化していた。
「敵艦隊、半月陣のまま依然我が方を半包囲しています。攻撃シフトが左翼に集中してきました」
「おのれ! また艦隊運動で我々を揺さ振るつもりか。防御シフトを……」
コジク副官が、対応のために防御シフトの変更を指示しようとした時、ソクディンが引き止める。
「待て、これを逆用してさっきの手を使う」
「と申しますと?」
「敵が左舷に艦隊を振ったのだ。ならば、我が艦隊の右舷後方はガラ空きではないか?」
「おお、まさしく。右後方四十五度の角度で全艦を急速後退させれば、前方のヤン艦隊を置き去りに出来るばかりか、イゼルローン要塞の主砲攻撃角度からも外れることができますな」
早速スクリーンに予想進路が表示される。赤く表示された要塞主砲の現在の射程圏内。角度二十度しかない細長い扇形の死地を斜めに横切るようにして後退していくソクディン艦隊の立体画像が
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