『銀河英雄伝説』――骨董品(ガラクタ)――
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うではありますまい。恐らく敵は我が艦隊の反転対応速度があまりにも早いとみて、いったん距離を取ったのでは?」
「なるほど。副官の意見には聞くべきところがある。よし、とにかく艦隊の再編成を急げ! ヤン・ウェンリーに付け入らせる隙を与えるな!」
「な、な、何!」
今度はつんざくような悲鳴を上げながら、オペレーターが報告する。
「イゼルローン要塞に異変確認。高エネルギー反応です!」
「閣下、トゥールハンマーですぞ!」
ソクディン艦隊旗艦のフロントスクリーンに、要塞の表面を覆う流体金属の上をまるで稲妻のような光の束が八本、渦を描きながら一点に集約されていく様が映し出される。
「馬鹿な! ここは射程外だぞ。反乱軍め、何をとち狂いおったか」
「敵要塞主砲、発射確認。来ます!」
下士官の引きつった叫びと共に、暗黒の銀河に乳白色の光の帯が伸びて来る。荒れ狂うプラズマを撒き散らし、宇宙空間そのものを飲み込まんとする雷神の鎚が、イゼルローン要塞からソクディン艦隊の背後へと押し寄せる。
旗艦の窓の外をエネルギーの奔流が一気に駆け抜ける。フロントスクリーンだけでなく幕僚達の自席のパネルまでもが瞬時にブラックアウトした。
あまりの眩しさに目を細め、思わず手をかざしながらソクディンが叫ぶ。
「くそっ! 被害状況を確認せよ」
上官の命令に必死で答えようとする副官のコジクが、眉間に皺を寄せながら情報を収集している。ようやくプリントアウトされた艦隊データを下士官からひったくるように掴み取る。
「閣下! 今の攻撃で沈められた艦艇はありませんぞ!」
「当然だ」
「ただし、トゥールハンマーの影響で電磁波に乱れが生じております。現在、全艦のレーダーと通信手段が使用不能であります」
「おのれ、ヤン・ウェンリー。かつて技術将校だった我が父が作り上げた要塞主砲をこんな子供だましの手段に使いおって」
「あと三分ほどでレーダーは回復します」
「そうか。その間、発光信号で艦隊行動を保て」
「御意」
短いようで長い時間が、重苦しい艦橋を淀んだ水のように流れていった。
「レーダー回復しました。スクリーンに出します!」
張り詰めた緊張から抜け出し、ほっと安堵したような航法士の報告が一転して驚愕の絶叫に変わる。
「て、敵艦隊確認! きょ、距離……至近!」
中央突破で駆け抜けて行ったはずのヤン艦隊が、まるで魔法のように整然とした艦列の半月陣形を見せてソクディン艦隊を包囲殲滅しようとしていた。
「なっ! 目の前ではないか。おのれ、いつの間に」
コジク副官の頭に血が登る。
「ええい、うろたえるな! 所詮は要塞主砲を目くらましに使った小細工に過ぎぬ。こちらはすでに全艦反転しておるでは
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