後輩、散る者
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た事があるという事だ。
私も過去に事故で両親を亡くした。
けれど、その時の私には先輩の感じている事と同じ事を感じる事は出来なかった。
4
「…今、私も同じ場所に逝きますから」
激しい雨が地面を叩きつけ、視界が悪化している中。それは見えた。
貨物車、私にとって死を運ぶ者だ。そして幼い少女、私を救ってくれる者。
声が聞こえてくる、若い女性の声だ。
悲鳴に近いその声に、信号を半分まで渡った幼い少女が首を傾げる。
青信号であるのに、信号を無視して突っ込んでくる貨物車。
それを目にして、私は一気に道路へと飛び出した。
この状況に辿り着くまで優に一週間の時間を費やした。
そうして、子供を助ける様に庇う様に抱き締める。
―――突如として鳴り響く、貨物車のクラクション。
それは私の死を刻む汽笛。
貨物車は急に止まる事も出来ずに、私の体を易々と弾き飛ばした。
思考が真っ白になる程の衝撃が襲う。そうして鈍い音を立てながら頭から地面に激突する。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い……!!!
あまりの痛みに痛覚器官が麻痺を起こす。
撥ねられた時におかしくしたのか、手足が歪な方向に曲がっている。
聴覚器官も麻痺したのか。
朧気ながらも、周囲から悲鳴に満ちた声が聞こえてくる。
「……お姉ちゃん、大丈夫?」
それでも、その声は確かに聞こえた。
私が抱き留めて、庇い切った幼い少女。その少女と視線が合った。
心配そうに此方の様子を窺う少女に、私は自分でも上手く出来たと思う笑みを浮かべる。
「……だいじょ、う…ぶ、です、よ」
そう告げると、少女は無邪気ながらも礼を告げる。それに幾ばくかの罪悪感を感じる。
この子を利用する様な形になった。けれど、最後に人の役に立てたのならば、無価値な私の人生にも意味はあっただろう。
解る、理解出来る。私の生命はもう長くはないと。
それを聞きながら、身体から温かい液体が流れ出て行く事を感じて…。
そうして私の意識はそこで黒く染まった。
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