後輩、散る者
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なかった。憶えていなかった。
―――暮桜霧嗣という存在は、初めから世界に存在していなかった?
何故だか、世界はそうして回っている。
私一人だけがおかしくなったのか?
「……そんな、訳はない」
否、私は否定する様に首を左右に振る。
確かに先輩はこの世界に存在していた筈だ、私の傍にちゃんと存在していた。
私はしっかりと覚えている。
言葉よりも、記憶よりも、この手が憶えているのだ。
嘗て先輩と繋いだこの手が、先輩を…あの人の事を憶えている。
「……私は、貴方を独りにはしません」
ずっと言いたかった事が、伝えたかった事が私にはあるのだから。
これは昔、先輩にふと質問をした時の事だ…。
3
「ねぇ、先輩?」
「んっ、どうした真綾?」
黄金色に染まる、サークルの部室。その日はどういう訳か、私達二人だけであった。
先輩はパイプ椅子に体育座りをしながら、窓より入り込む西日によって染まる天蓋を見上げていた。
首だけを動かし、私の言葉にそう答える先輩。
私はそんな彼に、当時読んでいた小説の疑問を口にした。
「人って、死んだら何処に行くんでしょうね?」
それは窓より入る西日の光が私を感傷的にさせたのか、何時の間にか口を伝って言葉となっていた。
それに先輩は一考する様な仕草をして、言葉を紡いだ。
「…さぁな。一般論としては、天国か地獄じゃないのかな?」
「……先輩個人としての感想は?」
「…秘密だよ」
悪戯っぽく笑みを浮かべた後、先輩は窓の外へと視線を向けた。
その時、私は不意に見てしまった。その先輩の横顔が儚くて、今にも消えてしまいそうな顔をしている事に。
その儚げな表情の理由を、意味を知りたかった。だが、私はその言葉を泣く泣く飲み込む。
先輩は自らの事をあまり話そうとはしてくれない。そこにはきっと何かしろの理由があるのだろう。
きっと其処から先は、私が踏み込んでいい所ではない。
それでも、この人の事を理解したいと思う。深く、先輩について知りたい。
それは私が今まで生きてきた人生の中で、初めて思った感情であった。
今は聞く事は出来ないけれど、何時の日か先輩の口から教えて貰いたい。
「……ただ、死に別れた人達と同じ場所に逝くには、それと同じ死に方をしなくちゃいけない…そう思うよ」
独白の様に、先輩はそう口にした。
言葉にした先輩の顔は窓の方を向いていて、窺う事は出来なかった。
けど、その声音と言葉には何処か現実味を帯びていた。そうして理解した。
ただ一つ解ったのは、過去に先輩は大切な人達を亡くし
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