そして彼女の道行きは
後輩、晴れない心
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
家族と呼べる人間は住んでいない。
私の両親は私が中学生の時に亡くなった。
その事はどうでもいい。元々仕事ばかりで碌に会話を交わした事もないし、普通の家族の様に円満な食事を摂った事も、もう覚えていない。それ程に昔の事だ。
故に、別段悲しさや虚しさを感じる事はなかった。
今は親族が身元保証人になって、遺産の管理もして貰っている。
親族からの仕送りと親が会社経営者であった事、亡くなった時の保険金。
それで、不謹慎ながらも今は不自由のない暮らしをさせて貰っている。
親が亡くなった時に悲しさや虚しさが沸き出て来なかった。
そして今の状況にそう思うという事は、私は相当の親不孝者であろう。
今では葬儀より前、最後に生きている時に会った事も覚えていない。
まぁ、私にとっては産みの親で育ての親であるが、その程度の人達であったのだろう。
「……おやすみ」
夕食も摂る事なく。
部屋に着くなり、寝巻きに着替える事なく、そのままベットに崩れ込んだ。
3
忘れた訳ではない。
多分私は其処が何処であるかを覚えているし、登場人物の事も覚えている。
実際にこうして、風景付きの夢を見ている。
それなのに、私はこの光景を、夢以外で思い出す事が出来ない。
忘れた訳ではない、この記憶を現実で引き出す為の“引っ掛り”がないのだ。
思い出す機会が現実のどこにもない。
思い出そうとすれば思い出せる筈なのに、そうやって“彼”の事を振り返る余地を与えない。
そもそも、彼とは一体誰であったか?
思考に雑音が混じって、雑影が記憶を埋め尽くす。
システムがエラーを発する様に、赤く、赤く危険信号を発した。
4
眠りから覚めた、翌日の朝。
早くに目を覚ました私は、特にする事もなく早々朝食を摂って、大学へと通学をする。
頭上を見上げる。今日の天気は曇りであった。
まるで私の心境を映し出したかの様に、空には灰色の分厚い雲が広がっていた。
今にも雨が降り始めそうな天気である。
「……何かしら?」
いつも通る通学路の十字路。
そこには何やら人が集まり、騒々しく、パトカーや救急車等の警報音が聞こえてくる。
普段の私ならば、無感心を装って気にもしない出来事。
けど、私は知らず知らずの内に足を止めていた。
―――…事故?
そこから推測される出来事は正にそれであった。
気が付いた時には、私は考えるより先に行動に移り出ていた。
「……事故でもあったのですか?」
「…ああ、信号無視をした貨物車が住宅地に突っ込んでね」
私は近くにいた、野次馬の一人たる初老の男性に
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ