新しいようで新しくない使い古した日常。 「紫」
[8]前話 前書き [1]後書き [2]次話
年が明けた。
高校はもう、新学期が始まっているだろう。
そういえば、あれから海斗ともレンとも会っていない。
……リンとも。
未練がましい、と自分でも思う。
いつまでも居なくなった人のことを引きずって。
いや、引きずってと言うより、認めずに、の方が正しいかもしれない。
俺は今も、リンを生者として扱っている自覚がある。
それに、リンが死んでも、俺は泣かなかった。
涙が出なかった。
それは、死んだことを認めたくないからだと、何かの本に書いてあった。
涙を流せば、その人はもう、本当にいないのだと気付かなくてはならなくなるから。
それが嫌な者ほど、大切な人の死に涙を見せなくなる。
本当は、泣きたかった、リンの死に。
でも出来なかった。
だからここにいる。
ここは、リンが好きな場所。
近所の公園の高台。
「好きだった」ではなくて「好きな」と言っている時点で死を否定しているのは
見え透いていて、だからよけいに泣けなくなった。
公園の高台はこの街が港街であることを実感させる活気のある港を一望できる、
見晴らしの良い場所だ。
リンはこの高台から見る景色が好きで、俺たちバンドの重要な日の前は
決まってここで景色を眺めたり、意気込みを話したりした。
リンの好きな場所に行けば、リンに会えるかも知れないと、どこかで淡い期待を
していた俺は、この場所に来たことでもっと心のどこかを抉られた様な気持ちになった。
俺は独りなんだな、と思った。
俺は独り。
どこか心の抉られた部分は、感覚がマヒしていて痛みはしなかった。
本当は痛いはずなのに。
心がマヒしているのは自分だけじゃない。それに気付いたのは…
[8]前話 前書き [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ