第二章 風のアルビオン
第四話 最後の夜会
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うが、あなたはまだ若い……戦いで死んだことにし、自由になることもできるのでは……。っ、いえ、失礼しました。今言ったことは聞かなかったことにしてください」
王子の覚悟をまるで無視した言葉に、士郎は慌てて謝った。
馬鹿か俺は! とうに覚悟を決めた者に何を言っている! なにを……。
ウェールズは顔を背け、手を強く握り締めている士郎を見ると、小さく、そして優しげな笑い声を上げた。
「っ、はは……ありがとう。実の所、確かにそのようなことを考えたことがないと言えば嘘になる。王家の子として生まれ、毎日休みもなく、王となるための勉学ばかり……何度も考えた……私がただの下級の貴族だったら、ただの平民だったらと……。しかし、今はなぜか、そんな考えは全く出てこないんだよシロウ。なぜだかわかるかい?」
「―――いえ……わかりません」
ウェールズの言葉に、わからないと答えた士郎だが、本当はわかっていた。昔、彼女も同じようなことを言ったことがあるのだから……。
「仲間だよシロウ……ここに残る貴族たちを見たかね、相手は五万、こちらの死は確実だ……しかし彼らは今ここにいる……こんな王家に忠誠を誓ってくれている。王家の義務、内憂を払えなかった責任、私がここにいる理由は様々あるが、一番の理由は彼らだ…確かに私はアンリエッタを愛している、彼女の願いはなんだって叶えて見せる……そう思っていた、しかし私はその思いを裏切り、彼らと共に戦い、死ぬことを選ぶ。……明日の戦いが歴史に記される時、彼らが逃げ遅れた王家と共に死んだ貴族ではなく、王家と共に、最後まで戦い抜いた貴族と記されるためにっ、私は彼らと最後まで戦うっ!私の誇りたる彼らと共にっ!」
―――共に戦った騎士たちが、私の誇りです―――
「……上に立つものは、やはりどこか共通するものがあるのかな……」
ウェールズの宣言のような話を聞き、士郎は小さく何事か呟くと、ウェールズの前に恭しく跪いた。
「シロウどの?」
「ご武運をお祈りいたします……」
士郎の言葉を聞いたウェールズは、微かに笑うと、目をつむり。
「シロウ、頼みがある……ウェールズは勇敢に戦い、勇敢に死んでいったと。アンリエッタに伝えてくれ……それだけで十分だ……」
そう言うと、ウェールズはテラスの扉を開き、喧騒が響くホールの中心に入っていく。
ウェールズが去ったあとも士郎はその場から動けずにいた。
ウェールズ皇太子……あなたの最後の望み……仲間と共に戦い死ぬ……せめてその死が、満足出来るものであることを願います……。
テラスに一人跪く士郎。その胸中をしるものは、夜空に輝く大きな双月も知ることはできなかった。
士郎は真っ暗な廊下を、ロウソクの
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