第二章 風のアルビオン
第四話 最後の夜会
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捨てるわけがございません! おっしゃってください殿下! 手紙の中に、亡命をお勧めになっているはずです!」
ウェールズは首を振った。
「そのようなことは、一行も書かれていない」
「っ―――殿下ッ!」
ルイズは瞳を潤ませながら叫んだ。
「私は王族だ。嘘はつかない。姫と私の名誉に誓って言うが、ただの一行たりとも私の亡命を勧めるようなものは書かれていない」
ウェールズは何かに耐えるように歯を食いしばり、しかしルイズの目をしっかりと見つめて言った。
「アンリエッタは王女だ。自分の都合を、国の大事に優先させるわけがない」
ルイズはウェールズの意思が果てしなくかたいのを見て取り、悲しげに顔を歪ませると顔を伏せる。
顔を伏せてしまったルイズを見たウェールズは、フッと優しく笑うとルイズの肩を叩いた。
「きみは正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。正直で、真っ直ぐで……いい目をしている」
ルイズは肩を震わせるだけで顔を上げられなかった。ウェールズの態度からして、ルイズの指摘が当たっていることはうかがえたが、臣下に情に流された女と思われないように、アンリエッタを庇う態度を取らせてしまうなどさせてしまい、申し訳なくて、悲しくて、苦しくて、いろいろな感情が混じり合って混乱し、どのような顔でウェールズに顔を向ければいいかわからなくなってしまった。
「忠告しよう。そのように正直では大使は務まらないよ」
ウェールズは微笑んだ。白い歯がこぼれる。魅力的な笑みだった。
「しかしながら、亡国への大使としては適任かもしれぬ。明日に滅ぶ政府は、誰よりも正直だからね。なぜなら、名誉以外に守るものが他にないのだから」
それから机の上に置かれた、時計と思われる、水がはられた盆の上に載った針を見つめた。
「そろそろパーティーの時間だ。きみたちは、我らが王国が迎える最後の客だ。是非とも出席してほしい」
士郎たちは部屋の外に出た。しかしワルドは居残り、ウェールズに一礼すると近づいてきた。
「まだ、なにか御用がおありかな? 子爵殿」
「恐れながら、殿下にお願いしたい議がございます」
「なんなりと伺おう」
ワルドはウェールズに、自分の願いを語って聞かせた。ウェールズはにっこりと笑った。
「ははっ、なんともめでたい話しではないか。喜んでそのお役目を引き受けよう」
パーティーは、城のホールで行われた。簡易の玉座にはアルビオンの王、年老いたジェームズ一世が腰掛け、集まった貴族や臣下を目を細めて見守っていた。
明日で自分たちは滅びるというのに、随分と華やかなパーティーであった。王党派の貴族たちはまるで園遊会のように着飾り、テーブルの上
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