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剣の丘に花は咲く 
第二章 風のアルビオン
第四話 最後の夜会
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命令で、“イーグル”号は裏帆を打つと、しかるのちに暗闇の中でもキビキビした動作を失わない水兵たちによって帆をたたみ、ピタリと穴の真下で停船した。

「微速上昇」
「微速上昇、アイ・サー」
 
 ゆるゆると“イーグル”号は穴に向かって上昇していく。“イーグル”号の航海士が乗り込んだ“マリー・ガラント”号が後に続く。
 
「まるで空賊ですな。殿下」
「まさに空賊なのだよ。子爵」

 ワルドがニヤリとウェールズに笑いかけると、ウェールズもワルドにニヤリと笑いかけた。







 穴に沿って上昇すると、頭上に明かりが見えた。そこに吸い込まれるように、“イーグル”号が上っていく。
 眩いばかりの光にさらされたかと思うと、艦はニューカッスルの秘密の港に到着していた。そこは、真っ白い発行性のコケに覆われた、巨大な鍾乳洞の中であった。
 そして、鍾乳洞の中にある岸壁の上には、大勢の人が待ち構えていた。“イーグル”号がその岸壁に近づくと、待ち構えていた人達が一斉にもやいの縄が飛んだ。水兵たちは、素早い動きでその縄を“イーグル”号に結わえ付けた。
 艦は岸壁に引き寄せられ、車輪のついた木のタラップががらごらと近づいてきて、艦にぴったりと取り付けられた。
 ウェールズは、ルイズたちを促し、タラップを降りた。
 背の高い、年老いた老メイジが近寄ってきて、ウェールズの労をねぎらった。
 
「ほほ、これはまた、大した戦果ですな。殿下」
 
 老メイジは、“イーグル”号に続いてぽっこりと鍾乳洞の中に現れた“マリー・ガラント”号を見て、顔をほころばせた。

「喜べ、パリー。硫黄だ! 硫黄!」

 ウェールズがそう叫ぶと、集まった兵隊が、うおぉーっと歓声を上げた。
 
「おお! 硫黄ですと! 火の秘薬ではござらぬか! これで我々の名誉も、守られるというものですな!」

 老メイズは、おいおいと泣き始める。

「先の陛下よりお使えして六十年……こんな嬉しい日はありませぬぞ、殿下。反乱が起こってからは、苦渋を舐めっぱなしでありましたが、なに、これだけの硫黄があれば……」

 にっこりとウェールズは笑った。

「王家の誇りと名誉を、叛徒共に示しつつ、敗北することができるだろう」
「栄光ある敗北ですな! この老骨、武者震いがいたしますぞ。して、ご報告なのですが、叛徒どもは明日の正午に、攻城を開始するとの旨、伝えてまいりました。全く、殿下が間に合ってよかったですわい」
「ははっ! してみると間一髪とはまさにこのこと! 戦に間に合わぬは、これ武人の恥だからな!」

 ウェールズたちは、心底楽しそうに笑い合っている。ルイズは敗北という言葉に顔色を変えた。

 えっ……敗北。敗北って……死ぬってことじゃない! 
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