その男は空気を読まない
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平穏……それは何時も傍にあり、そして突然崩れ去るモノである。
「いいか、文句言わずにさっさと二千万持ってこい! 妙な動きして見やがれ! その瞬間にこいつの頭ぶち抜いてやるからな!」
「ひぃっ……」
強盗と思わしき銃を持った男が、人質と思わしき中年の男の頭に銃口を当てている。見ると、その周りにも男女合わせて数人ほど仲間と思わしき人物がおり、それぞれ持っている銃器を他の職員へ突き付けていた。
銀行のガラスは無残にも割られ、たまたま銀行に来ていた運の悪い客達は、皆怯えて肩を寄せ合っている。
強盗のリーダーと思わしき人物が二千万を要求し、更に銃口を人質へと密着させる。それを見た銀行の職員は、あわててバッグに札束を詰め始め、そしてリーダーの傍にいる男へとバッグを渡す。
彼はバッグの中身を確認し、要求通りの金額が入っている事を確かめると、リーダーの男へと合図を送った。
「きっちり二千万あるみてぇだな……、ずらかるぞ! オラ、お前もこい!」
そして人質の男を連れたまま、銀行の外へと徐々に向かっていく。 無論、人質や周りに銃を向けたままで。
と、そこで強盗の内一人が妙な音を耳にしたらしく、リーダーに向かって耳打ちする。
(リーダー……むーむーって音がするんですが……)
(なに?)
強盗の発音は変だが、もしかするとパトカーの音なのかもしれないとリーダーは思い、きつい眼で職員達を睨みつける。
「オイてめえら……妙な動きはするなと―――」
しかし、彼のその発言は見事に遮られた。
「ぐ〜…んが〜…む〜…む〜…」
「「「「「へ?」」」」」
それは、この場では聞こえる筈のない“いびき”であり、強盗も職員も一般客達も眼を丸くし、次いで発生源を探るように見回す。すると――
――いた。
腕を組んで俯いている、フードをかぶった身長の高い男が。初めは気のせいかと皆思ったが、その男からばっちり寝息が聞こえ、確信する。
「ふざけやがって……」
緊急事態だと言うのに呑気に寝ている男に腹を立てたのか、背の低い男の強盗が彼に詰め寄った。
「おいてめぇ!! 起きやがれ!」
「……あ?」
強盗の大声で男は眼を覚ます。が、目の前に銃を突きつけられているというのに、欠伸をして頭を掻いている。
「……終わってねぇな……起きて損した」
その余りに場を呼んでいない彼の一言で、背の低い強盗はキレた。
「ふざけてんじゃねぇ! そんなに終わらせたきゃ終わらせてやる! 死にやがれ!!」
そして彼は怒りのまま銃のトリガーを引き、銀行内に銃声が響き渡る。
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