番外編
再開のダイシー・カフェ
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な空気……SAO生還者独特の気配を纏った少年。言うまでも無くこの場のセッティングに一枚噛んでいただろう男、キリトだ。ゲーム内で見慣れた黒服とは違う、SAO事件の生徒の通っているウワサの学校の学生服を着た姿だが、その独特の雰囲気はそのままだ。
「エギル、忙しくなる直前に悪いな」
「別に構わんさ。四人ならテーブル一つで済むしな。注文は?」
にやりと笑いながらエギルに「いつもの」と言ったキリトが、じろりとこちらを見る。
その口元に浮かんだ笑みが「ざまあみろ」の意味を多分に含むのは、俺にははっきり伝わった。
(んにゃろ……)
あいつが例の「マザーズロザリオ」の件で俺から一発ぶん殴られるのが仕方ないと分かっていたように、リズベットに対しては俺は一発ぶん殴られても仕方ないと分かっている。それを利用しやがったわけだ。
……随分手の込んだ仕返しだな、キリト。覚えてやがれ。
「参ったね…」
俺は苦笑する。声が漏れてしまうほどの、ガチの苦笑だ。
「まあ、そういうことだよ、シド」
「私は、ずっと会いたかったですよ、シドさん。本当に、久しぶりですね……」
「いつか会うなら、今日でもいいだろう?」
それを見て、キリトの笑いの質が変わる。アスナの困ったような苦笑も、目を細めた微笑に変わる。カウンターを見やれば、エギルも笑っていた。
「……全くっ……心配したんだからねっ……!」
リズベットも、泣きながら怒りながらも、その心が笑っていることが、俺には分かった。
「……やれやれ、だな……」
諦めて腕を引き摺られるままにテーブルについて、そのまま注文を出す。
今日はまた、長くて賑やかな夕方になりそうだった。
ふと見やると、窓の外の日は傾き始めて、世界は赤く色付き始めていた。
だが空には色付く雲すらなく、俺の苦手な快晴のまま。だが。
(まあそれも、たまには悪くない、かもな……)
苦手と思っていた、晴れ渡る空。 けれどもそんな空も、付き合ってみれば悪くないかもしれないものなのかもしれない。きっと自分はこれからも、そういった食わず嫌いを知っていくのだろう。そしていつかは、自分の苦手な賑やかさも、嫌いな言葉も役割も、案外悪くないと言えるようになるのかもしれない。
ただ旧友と会っただけで大袈裟かもしれないが、そんなことをふと思った。
空は相変わらず、カラリとよく晴れたものだった。
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